表紙にどどんとエマニュエル・トッドの写真が出ていて、『世界の未来』なんていうタイトルがついていると、「お、トッドの新刊が出たな」なんて言ってついうっかり手を出してしまうお調子者が世の中にはけっこういるんだと思う。自慢じゃないがそのうちの一人はこの俺様だ。
中身をよく見ると、「朝日地球会議」での講演とインタビューを集めた本だ。もちろんトッドもしゃべっているが、だいたい1/4ほど。民主主義と
ポピュリズムに関してピエール・ロザンヴァロン、資本主義の限界についてヴォルフガング・シュトレーク、そして格差と分断の克服というテーマでジェームズ・ホ
リフィールド、という、わたくしなんぞは聞いたことのないような面々が語っておられるわけだ。しかるに
朝日新書は通常の装丁に加えて、トッドの写真と名前がひときわ目立つように大きく印刷した(下1/3ほどのスペースに他の3名は押し込まれている)表紙を特別に作り、書店で平積みにするわけだ。まったくもってあざ
といというか小賢しいというか。まあ騙される方が悪い、というか別に騙してもいないのだろうけど。これ、
朝日新書のいつもの手口だよなあ。こういう阿漕な真似をしときながら「資本主義の限界」について語るのもなかなか味わい深いものがございますね。
トッドの講演は、2016年のアメリカ大統領選の少し前、誰もが、起こり得ないこと、あまり趣味の良くないシャレとしてしかそれについて語らなかった時に、十分に可能性のあること
、あるいは歴史の必然として「
トランプ大統領」について論じていたものだ。
まああまりトッドを予言者のごとく持ち上げるのもどうかと思うが… すごいですね。まったく、「4私たちはどこに行くのか」という感じだ。
その他の3人の話もなかなか面白かったのですよ。
特にピエール・ロザンヴァロンの民主主義と
ポピュリズムに関する話とかね。行政権力が政治の中心を占めるようになるにしたがい、選挙によって選ばれた権力は、一般意思を代表する能力を減じていったという指摘とか。選挙の結果は権力を正当化するのか?という疑問も含め、ちょっと最近なんだかモヤモヤしていたものにヒントを与えてくれる気がするのよね。
また騙されてしまった(騙してないって)けど、まあ面白かったからよしとしましょう。