書店でたまたま見かけて、なんとなく面白そう、と思って買った「カエサルを撃て」。
- 作者: 佐藤賢一
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1999/09
- メディア: 単行本
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なかなか読み応えあり、だった。カエサルといえば「ローマ人の物語」も「ガリア戦記」も読んだけど、正直もうひとつピンとこないところがあった。だけどこの本では、カエサルもヴェルチンジェトリクスも、そのキャラクタは実に生々しく、そしてカラフル。史実なんかは、平気でねじ曲げてる。それで却ってリアルになってるところだってあると思う。「ローマ人の物語」なんかは、まずは確実にわかっている史実を積み上げ、欠けている部分を想像で補い、その上で述べられるシオノさんの能書きを楽しむもんなんだ。だけどここではあまり難しいことは考えず、ただストーリーを、そしてカエサルとヴェルチンジェトリクスのキャラクタを楽しめば良い。色んな読み方はあるだろうけど、大きなテーマは「老獪な中年男の分別vs無鉄砲な若さの勢い」。そしてこの対決によって、2人は互いに影響を受けて、カエサルは失いかけていた熱を取り戻し、ヴェルチンジェトリクスはちょっとした分別を身につける、というわけだ。カエサルがこのガリア戦役でヴェルチンジェトリクスに影響されたことにより、最後にはルビコン渡河を決心する、というのも、そして英雄ユリウス・カエサルを薄くなった髪を気にするショボい中年男として描く、というのも面白い。だからこそ、それでもやっぱりカエサルは英雄で有能な政治家だ、ていうのが真実味が出るんだし。あと、ガリア戦役は、ローマ人に言わせれば蛮族を文明化するための事業なんだろうけど、やっぱりガリア人からみれば、これは侵略戦争以外の何者でもないんだよなあ。どうしても「ローマ人の物語」なんかはこういう視点では書かれないわけだ。まぁ、『ローマ人』の物語なんだから当たり前だけど。