前から気になっていた「博士の愛した数式 (新潮文庫)」が昨年の暮れ、ついに文庫化されたので、読んでみた。
- 作者: 小川洋子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/11/26
- メディア: 文庫
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これは参った。あまりにも悲しくて、美しくて、静かで、思わず涙の出る話。そういや「メメント [DVD]」って10分以上前のことを記憶できない男の映画があって、あれはまた殺伐としてたけど、こちらは80分以上の記憶を持てない64歳。それで随分と話が変わるもんだ。
それにしても、記憶が無い、あるいは誰かに憶えられない、ていう事がこんなにも悲しいものだとは。そして、数字の世界の美しいこと。きっと、その本当の美しさを理解するには、ある種の純粋さが必要とされる。それは、普通の人間が普通に暮らしていくために必要ないくつかのものとひきかえにして初めて手に入れられるのだ。なんてな。
この話はずっと、淡々と語られて行く。別に、ここがクライマックス、さあ泣いてください、なんていうのがあるわけじゃない。そのあたりが「静か」っていう印象につながってるんだと思うけど、それがまたたまらんのよ。それによって、博士の悲しさ、数字への愛情、そして数字の世界の美しさが何倍にも増幅されるわけだ。
映画化されたけど、見てみたいような、見たく無いような。