野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

さすが文豪

こんな夢を見た。
で始まる、十編の超短編。最近映画になったんだとか。読んだ事がなかったのだけど、映画の紹介をみたら何だか面白そうだったので、原作を読んでみることにした。今回買ったのは、集英社文庫の「夢十夜・草 枕 (集英社文庫)」だ。

夢十夜・草 枕 (集英社文庫)

夢十夜・草 枕 (集英社文庫)


どうもストーリーは、映画版とずいぶん違うようだが、これはこれでなかなか面白い。確かに夢みたいな、支離滅裂な話だ。
ただこの本、実はボリューム的にいうと後の「草枕」のほうがメインなのだ(と思う)。「草枕」といえば、あの「山道を歩きながらこう考えた」で始まる一節があまりにも有名だ。確か中学生ぐらいの時に一度読んでいる。「読んだ」という記憶はある。だけど中身をまったく覚えていない。「毫も記憶に止めておらぬ」というやつだ。どうにも難しい漢字が多くて読むのに難儀するが、あの「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。兎角この世は棲みにくい」という調子でどんどん流れて行く、その勢いがなんとも小気味良い。
面白いのは、吸い物だったかの椀に入った料理や、羊羹の色を楽しんでいるところで、これはまさに谷崎潤一郎の「陰翳礼賛」に書かれていたそのままだ。ああいう微妙な色合いというのは、やはりトラディショナルな日本人の琴線に触れるものがあるのか。
それにしても昔の人は、あんな難しい漢字を手で原稿用紙にごりごりと書いておったのだなあ。