野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

弁慶!

落語か音楽かどっちやねん。へえ両方です。京都のライブハウスMODERN TIMESで、その名も「音楽と落語の会」、出演は桂○雀、桂む雀、あらいなおこ、井川由美子、という面々。
桂九○さんが伏せ字になっているのには訳がある。実は落語というのはライブハウスでやるのには向いてない。観客にかなりの集中力を要求する。先日読んだ「落語論」にも同様のことが書いてあった。落語は非常に「脆い」芸である。ちょっとしたことで壊れる。携帯電話はもちろん、酔漢や、不必要にデカい笑い声ですら壊れてしまう、と。僕もそう思う。
しかるに、ライブハウスというのは飲み食いしてナンボ、というところである。客が飲み物や料理を注文しないとライブハウスはもうけにならないのだが、噺の最中にビールを注文したり、鶏の唐揚げが運ばれてきたらそこでオーディエンスの集中力は途切れる。すなわち、落語という芸が「壊れる」。
そんな事情なので、ライブハウスから落語会のオファーがあってもずっと断っていたらしい。ブログなんぞに「ライブハウスで九○さんの落語を観ましたー」なんてお気楽に書いたら、他のライブハウスにバレてしまい、仕事を断れなくなってしまう。だから、書かんとってください、とのことだ。というわけで伏せ字にしてある。
音楽と落語の会は三部構成だった。一部は○雀さんの落語「青菜」。僕が初めて落語を生で聴いたのが、桂歌之助さんによる、この「青菜」だが、なるほど人によってディテールが違うものだ。九○さんの師匠である枝雀師のCDも聴いたことあるが、それともまた違う。「ぜ〜たくでんなぁ」はわりとあっさりしているが、色々と独自の工夫をされているようだ。
本当にこの噺は季節もので、だんさんの家の縁側で柳陰と鯉の洗いをごちそうになっているところでは、なんとも言えん涼しい感じがするし、西陽のあたる長屋のシーンでは、じりじり汗がにじんでくるような気分になる。そして、押し入れから汗だくの嫁はんが出てくるあたりは、やはり何度聴いても笑える。
二部は音楽のコーナー。毎度おなじみクロマチックハーモニカあらいなおこさんとアコーディオン井川由美子さんで2曲ほど。ここで○雀さんがクラリネットを持って登場。井川さんは今度はピアノで、三人で「Memories Of You」を演奏。
そしてむ雀さんが登場。彼は4年前に脳出血で倒れ、それから右手・右足が動かなくなったため、なんとか片手でできる楽器を、ということで複音ハーモニカを始めたのだそうだ。この一年ほどで仕上げた曲、ということでまずは誰もが必ずやる「きらきら星」。少し難度が上がって「ふるさと」。一年でこれくらいできるようになるもんなんですなあ。
今度はまた九○さんとあらいなおこさん、井川由美子さんの三人で「鈴懸の径(すずかけのみち)」、この曲、「コールポーターかいな?」と思っていたら日本人の曲だった。しかも結構有名みたい。へええ。
ハーモニカのなおこさんとアコーデオンの由美子さんの二人に戻って、今度は「カルメン」。かっちょエエ!さらに一曲オリジナルをやって、第二部終了。
第三部は落語「ハモニカ伝来」。タイトル通り「はめもん」としてハーモニカが入る。昔、ハーモニカ奏者の小林忠夫さんと共演していたのだが、小林さんが亡くなってから封印していたのだそうだ。あらいなおこさんと共演するようになって、実はなおこさんが小林さんに師事していたこともあるということがわかり、これも何かの縁ということで最近復活させたのだとか。主役が狐で、婚礼の余興にハーモニカを吹いてもらうよう人間に頼む、という、ちょっと童話のような噺だ。
最後に、全員登場で「Amazing Grace」。いやー桂九○さん、芸達者ですなあ。今度またぜひに、繁昌亭あたりでがっつりと落語を聴いてみたいものだ。