野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

名前のない「子供」

先日ツイッターでタルコフスキーの「サクリファイス」について触れられているのを見て、なんだかやたらとこの映画を観てみたくなり、DVDを楽天でポイントを使って買ってみた。

別に血沸き肉踊るアクションがあるわけでもないし、手に汗握るサスペンスでも、血の凍るようなホラーでもない。はっきり言ってなんだかよくわからない。なのでついウトウトとしながら、でも退屈なのかというとそれはちょっと違う。うまく説明できないけど。
ストーリーとしては、海辺の家に住むちょっと頭のイカレたオッサンが、核戦争から人類を救うために自分を犠牲にする、という妄想のためにあれこれと不可解な行動をとった上になぜかジャパニーズ・キモノを着て自宅に放火する、というものだ。もう無茶苦茶。
でもね、そのイカレたオッサンの独白にはいろいろと文明批判があって、昨今の状況を見るになんか結構タイムリーな感じもするのよな。
でやっぱりタルコフスキーと言えば水でしょう。家の周りには海があるし、雨が降ったわけでもないのになぜか地面はぬかるんでびちょびちょ。「ノスタルジア」に比べるとどっちかといえばちょっと汚い、というか気持ち悪い系の映像美(そんなもんあるのか?)という感じだ。
そういえば最後に炎上、というのもノスタルジアと同じだな。
音楽は、本当に必要最小限のBGMだけつけました、というところか。最初と最後にバッハのマタイ受難曲。そして途中には何度か正体不明の尺八の音響が入る。主人公アンドレイが好んで聴いた日本の音楽、ということらしいが。いずれも美しく、不思議な映像とマッチして良い感じなんである。
全体に、それってどうなのよ、とツッコミたくなるところが満載なのだけど、それらがもういちいち計算された上でやられてるっぽいのが油断ならない。まあとにかく不思議な映画だ。