野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

俺をジュニアと呼ぶな

大著「M/D」が、ついに文庫化の運びとなった。まことに結構なことである。まだ上巻だけであるが、こんなマッシヴなものを一気に出されてもお腹を壊しそうなので、それはそれで良いのである。


この本は、タイトル通りマイルス・デューイ・デイヴィスIII世、すなわち所謂ところのマイルス・デイヴィスに関する研究本なわけである。
「エレガンス」、「アンビヴァレンス」、そして「ミスティフィカシオン」という3つのキーワードによって帝王マイルスの作品、思想、そして伝説と化している数々の言動について読み解く、というのがこの本の試みだ。
しかるに、「憂鬱と官能」、「東大アイラー」に見られたような狂騒的なグルーヴは鳴りをひそめ、ストイックなまでに抑制的な語り口による「エレガンス」、もはや崇拝と言っても良いレヴェルの手放しの賞賛と、分析対象として突き離してみる冷徹さが同居する「アンビヴァレンス」、そして数々の伝説に対する斬新な解釈とペダンティックが醸し出す「ミスティフィカシオン」がこの本にはみられる。つまり自身がマイルスを体現することで対象を解析するというなんとも倒錯的なことをやっているわけだ。
最後の濱瀬元彦氏による楽曲分析は難解すぎて目眩がしたが、とりあえず下巻のリリースが待ち遠しい。毎年9月恒例の「ローマ人の物語」を読み終わったころに出してもらえれば申し分無い。