野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

Séduction de lard

夕方に心斎橋あたりでちょいと腹ごしらえ、と思って、なんとなくカツカレーな気分なときに、あの店のことを思い出した。「江州あぶらや」という店だ。昨年の夏に一度行って、またそのうちと思っているうちにもう一年近く。
この店は本来ステーキ屋らしい。が、どうも実際にはカレーが大人気なんだそうで。色々なメニューがあるのでその辺を開拓せねば、と思っていたのだが結局は前回と同じカツカレーを注文してしまった。実にコンサバな男なのだ俺様は。私は旅や探検家が嫌いだ。
ここのカツカレーを食べるなら、それなりの覚悟を決めて臨むべきである。カレーが辛いとかそういうことを言っているのではない。問題はトンカツだ。かなりデカい(20cm×10cmぐらいかな?)が、それも問題の本質ではない。いま一度店の名前を思い出されたい。そう、この巨大なトンカツのほぼ半分は脂身なんである。まさに、名は体を表す。というやつだ。多くの人が脂身と聞いただけで眉を顰めるに違いない。だが、この俺様は知っているのだ。決して多くはないが、脂身と聞いてある種の脳内快楽物質が分泌される人種が間違いなく存在するということを。いまの世の中、脂身なんてものは迫害されてしかるべき食材(食材なのか?)だと思うのだが、それを敢えてフィーチャーするこの店主にわたくしは惜しみないリスペクトを捧げるのである。
などと御託を並べながら(いや実際には黙ってましたけど。一人だから)旧友・アブラミ君との再会を寿いだわけである。
しかしその代償は小さくない。その後、尋常でない満腹感(いわゆる「お腹ぱんぱん」な感じ)に就寝時まで苛まれ続けることになるのである。満腹感に苛まれる、というのもおかしな表現かもしれないが、実際そうなのだ。400万年の人類の歴史の中で、「満腹」なんていうのは本当にごくごく最近、おそらく100年ぐらいの間で、地理的にも極めて限られたエリアの特定の民族のみが体験した状態のはずだ。だから、人間の体というのは「空腹」とか「飢餓」に対しては、その長い歴史のなかでありとあらゆる対抗策を発達させてきたが、「満腹」に対しては極めて弱く、その身体的パフォーマンスを著しくて低下させてしまうことになるわけだ。

などとどうでも良いことを書き散らかしていたら長くなりすぎたので、本来書こうと思っていたこと、つまりカツカレーを食べた後の用事については別途、日を改めてということにさせていただく。