野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

色々と考えてはりますな

「世界の経営学者はいま何を考えているのか」なんて、こりゃまた大きく出たなと思いながら。

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア

世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア


本の帯には「ドラッカーなんて誰も読まない?」なんて書いてあって、おいどういうことだ経営学てのはドラッカーとかハーバード・ビジネス・レビューとかのアレじゃないのか、と思わせながら読み進めると、ドラッカーは立派かもしれんがありゃ「科学」じゃない、だから最先端の経営学者は誰もドラッカーなんぞ読んじゃいない。そして、ハーバード・ビジネス・レビューには最先端の経営学研究における成果のうち一部、現場で役に立ちそうなものを一般人にもわかりやすく書いているに過ぎなくてあれは経営学とは違う、などと書いてある。ほほうなるほど。確かにそう言われてみれば、ほんらい経営学は「科学」である(あろうとしている)のに対して、ドラッカーのアレはどっちかというと「思想」だわな。
とにかく「経営学」というのは常に科学的なアプローチを取ろうとしていて、そして経済学、社会心理学、統計学、ゲーム理論、ネットワーク科学や複雑系の科学まで取り入れた、実に学際的な学問であるらしい。その研究の中には、なんでそんなアホみたいなことをやっとるんだ、というか、そんな必死になってあれこれやった結論が、そんな当たり前の話かよ、というようなものもある。いやいやしかし、直観的にはこうだ、とかこれが常識だ、みたいな事について、きちんと科学的に分析してそのテーゼが正しい、ということを証明しようとする態度が大事なのだろう。
ただどうも気になるのが、誤解・誤読を恐れてか、妙に言い訳がましい断り書きが散見されることだ。なんだかフロイトの「精神分析入門」を思い出したぞ。筆者ご自身も、あとがきの中でそのことについて反省しておられたが。まあこれも筆者の知的誠実さの現れと取ることもできるんではないか。
いずれにせよ、この本の中で紹介されるいくつかの研究成果はなかなか面白い。イノベーションはバランスの良い知の深化(exploitation)と探索(exploration)によってもたらされる、とかね。だからと言って巻末に挙げられている参考文献など読んでみようなどという気にはなかなかならないが… まあたまにハーバード・ビジネス・レビューを立ち読みして、世界の経営学者がいま何を考えているか、に思いを馳せてみる、というのもまた一興かと。