野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

こりゃたしかに奇跡の対話集ですわ

書店をうろうろしていると、黒い表紙の文庫本、「六つの星星 川上未映子対話集」、なんてものを発見してしまった。ふーん、と思って手に取り、裏表紙の紹介文を読むと「川上未映子が、敬愛する作家や生物学者、哲学者、精神科医ら6人と切実に語りあう」とある。んん?と思って中身を見ると実は、生物学者=福岡伸一、精神科医=斎藤環、なんてことになっていて、こらえらいこっちゃと鼻息荒くさらに見ると、なんと穂村弘、なんて名前まで出てきて、この時点でKO負けですよ。先日「ヘヴン」を読んだばかりでアレなのだが、まあこの際しかたがない。

六つの星星 川上未映子対話集 (文春文庫)

六つの星星 川上未映子対話集 (文春文庫)


一発目の斎藤環せんせい、最初のページからいきなりペニスペニスと連呼してなんなんですかあなた。「要するにペニスしかないんです」などと言い切って、さすが精神科医、というかラカニアンは一味違う。まあそれに対して平然と受け応えする川上さんもやっぱりすごいけど。

精神分析と哲学で一番対極的なのが「性」の取り扱いです。極言すれば、哲学は、ほとんど性の問題を扱えない。性の私秘性は、普遍を志向する哲学とは相容れないからです。いっぽう精神分析は、あらゆることを性(関係)的な文脈で考える。だから哲学者が性を扱うときは、しばしば分析の言葉を密輸入していることが多いんですね。もちろん、ヘーゲルを密輸入したラカンという逆の例もあるんですが。(p.38)

などというのにはもう、ほおぉ、というしかないわけだが、とにかく喋ってる内容が難解すぎてとてもついていけない。
ほむらさんとの対談では、「ワンダーとシンパシー」の話をするわけだが、ここでのほむらさんはなんだかすごく「ちゃんとしたひと」みたいで、ものすごい違和感をおぼえるのだな。まあおそらくこれがほむらさんの本性なんだろうけど。ちょっと面白くないな(歌人を面白い/面白くないの尺度で評価するのもどうかとは思うが)。
いちばん面白かったのは、福岡ハカセかもしれない。しかし福岡ハカセの持論である、「生命とは同的平衡である」というのを、われわれは「蚊柱」にすぎない、と言い換えてしまうのは、こりゃやはり川上さんってすごいわ。天才ですよほんと。
そして最後の、「『ヘヴン』をめぐって」という、永井均さんとの対談。そうか、「ヘヴン」てなんだかニーチェっぽいと思ったらやっぱりそうだったのか。ヘヴンの登場人物である「コジマ」、「百瀬」、そして「僕」という三人に対してそれぞれ宗教、倫理、友情の問題を割り振りできる、と永井さんは読んだそうだが、そういえば「コジマ」っていう字面はなんだか「ゾシマ」によく似ているじゃないか。老僧ゾシマ。わざとやってるのかな?そんなことないか。
というわけで、取っつきやすく、読みやすいようで実は意外と難解な一冊でした。