野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

あんまり定義しているようには見えませんが

高校から大学ぐらいのころ、特によく読んだ本といえば安部公房大江健三郎の小説だった。安部公房はともかく、大江健三郎なんてやたら読みにくくて、ずいぶんと苦労しながら、でもなぜかあの小説の世界にはどうしようもなく惹かれていたのを憶えている。結局はなんだかんだ文句言いながらもあのころ新潮文庫で出ていた小説はすべて読んだんじゃないかと思う。それも『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』か『新しい人よ眼ざめよ』あたりまでで終わりで、あとは『宙返り』と『取り替え子(チェンジリング)』を読んだぐらいじゃなかったと思う。
んで、久しぶりに書店で大江氏の新刊『定義集』を見かけて、おおっ、と思ったわけだ。

定義集

定義集


「人生のさまざまな場面で出合った忘れがたい言葉を、 書き写し、もう一度読み直す」という主旨らしい。数十年を経て改めて彼の文章を読んでみると、まあ相変わらず何とも癖のある文体で、読みにくく、わかりにくいなんのって。でもそれがなんだか妙に懐かしく、嬉しい感じがするというのもまた妙なもんですな。そして同時に、サイードとかチョムスキーとかレヴィ=ストロースとかバルガス=リョサとか、やたら気になる名前がいっぱい出てくる。自身の思想のかなりの部分が、中学から高校、大学にかけての読書体験によって方向付けられてしまったんだろうなと思った次第である。