野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

先っちょに触れてみる

「知の最先端」なんてうまいタイトルをつけるもんですな。つい手を出してしまう。

知の最先端 (PHP新書)

知の最先端 (PHP新書)

いやもちろん内容も決してタイトルに負けてはおりませんが。まさに最先端の知性、といっても差し支えないであろう7人のインタビュー集。シーナ・アイエンガーとかダロン・アセモグルとかリチャード・フロリダとか、恥ずかしながらわたくしの知らなかった名前だが。知らないと言えば、車の短時間レンタルができるzipcarとか、所有する不動産の余っているスペースを貸すairbnbとか、そんなシステムがあるなんて初耳だ。これはクリス・アンダーソンが「シェア」について話ているときに出てきたのだが、面白いことにその後にリチャード・フロリダが今度は価値観の転換、という話題の中でzipcarについて言及している。最先端の知性は、やはり同じようなところに着目するのか?
クレイトン・クリステンセンの話も面白かった。イノベーションには「エンパワリング・イノベーション」、「持続的イノベーション」、「エフィシェンシー・イノベーション」の三つのパターンがある。エンパワリング・イノベーションは精巧で高価な商品を、シンプルで手頃な価格に変える。これは新しい消費を、市場を、そして仕事を創出するもので、成長には欠かせないものである。持続的イノベーションは古い製品を新しい製品に置き換えるだけなので、仕事は創出しないし資本も増えないが、経済は活発になるし市場優位性を保つためには重要な過程である。エフィシェンシー・イノベーションは合理化により資本をつくりだすが仕事を減らす。起業運営はこの三つを慎重にバランスさせながら行わねばならない、と言う。エフィシェンシー・イノベーションでつくりだした資本をエンパワリング・イノベーションに再投資し、ぐるぐる回していくイメージだ。ところが、かつては行われていたエンパワリング・イノベーションを喪失してしまったことが、日本企業の低迷を招いている、というわけだ。トヨタのカローラはエンパワリング・イノベーションだったが、プリウスは持続的イノベーション。ジャストインタイム生産方式というエフィシェンシー・イノベーションで得た資本をエンパワリング・イノベーションではなく、さらにエフィシェンシー・イノベーションに再投資して、資本を積み上げてしまった、と。でもどうなんでしょね。プリウスが売れても、結局その分カムリは売れなくなる、だから持続的イノベーションだ、ってことなんだけど、トヨタ自身はプリウスはエンパワリング・イノベーションのつもりだったんじゃないのかな。知らんけど。
あと、「あるときには末梢的に思われたことが将来、コアになり、その逆も起こりうる。それがもたらす結果に対する代償を払わずに、ある部分をアウトソーシングできるかどうか。それを見通すことは非常に困難です。」(pp.164-165)って、まったくその通りよね。それがわかってて「未来をアウトソーシングしていはいけない」って言うのはなかなか酷ですな。「自社が将来成功するために必要な能力は必ず社内に残しておくといった、先を見据えた判断が必要とされるのです。」(p.165)てねぇ。難しいよねやっぱり。
という感じで、200ページ強でそんなにボリュームは無いけど、なかなか濃厚な一冊でございました。