野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

ボケたふりには気をつけろ

殺人事件が起こった。しかし犯人は誰かわからない。あるいは、犯人らしき人物はいるのだけどどうも違うっぽい。これを叩き上げで荒くれ者の刑事とか美女のキャリア警官とかちょっと人格が破綻した探偵とかこましゃくれた小学生とか、が巧妙に仕組まれたトリックを見破り、犯人を特定する。というのがいわゆるミステリーだ。が、ときどき、最初にいきなり誰かが殺され、犯人は誰か(オーディエンスには)わかっている。そのトリックもわかっている。というパターンがある。例えばもじゃもじゃ頭でよれよれのコートを着た刑事が、犯人を心理的に追い込みながらトリックを暴いていく、とか。このパターン、ドラマや映画では観たことがあるが、小説では覚えがない。でも「赤い指」っていうのはそういう話だ。トリックそのものではなく、トリックを見破るプロセスとか発想にフォーカスするわけね。

赤い指 (講談社文庫)

赤い指 (講談社文庫)

息子が自宅で人を殺してしまった。最初は自首させることを主張するのだが、妻に押し切られ偽装工作をすることになってしまった哀れな中年男。まったく、彼の妻の鬼嫁ぶり、そして息子のクソガキぶりと言ったら。自業自得、という部分もあるのかもしれないけど、それでも彼の境遇に対しては同情を禁じ得ない。そしてじわじわ刑事に追い詰められる様子も含め、何ともたまらん話なわけですよ。
親と子の関係にまつわる機微、みたいなものがテーマなのだろうけど、どうも前記のような息苦しさが強すぎて、いやぁええ話ですね、と言う気にはなれない。ま別にそんなこと言わなくて良いのだろうけど。そんなこと言いながらも一気読みですよ。
タイトルの「赤い指」にもちゃんと意味がある、というかこの物語のキーになっている。東野圭吾さん、上手いですな。なるほど大人気なのもよくわかる。あと2冊ほど借りているので、ほとぼりが冷めたら(何の?)また読むとしよう。