野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

へんこジジイのソロピアノ

ジェフ・ベック 69歳
ギドン・クレーメル 67歳
キース・ジャレット 68歳(今月8日に69歳になる)。
このひと月の間に、立て続けにこれらのお爺ちゃんたちのライブを観に行った。いやもうみなさんそれぞれにすごい。
さて5/3、フェスティバルホールにてキース・ジャレットのソロコンサート。
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19時を少し回ったところでキース登場。なんだかアブストラクトな感じで始まったが、だんだん調子が出てくる。しかしどうも観客席のノイズ(特に咳とか)が気になるようで、何度か演奏を中断してしまう。最初に手癖か思いつきの適当なフレーズをぱらぱら弾いて、それをどんどんふくらませて曲に仕上げていくという感じ。これがうまく行って、調子に乗ってくると、実に圧倒的でエキサイティングな演奏になる。特に第二部では、半分以上中腰で、あの有名な調子っ外れの歌声というかうめき声というかは全開、そして時おり足を踏みならして、そりゃもうすごいことになる。こうなった時の演奏は素晴らしい。
が、特に曲の最初の方で、適当なフレーズを弾きながら、徐々に曲が姿を現してくるのをそろりそろりと捕まえようとしている状態の時に客席で、げほ、なんて音がすると、音楽は彼の手をすり抜けてどっかへ行ってしまう。そうすると、"Oh, man!"なんて言いながら演奏を中断してしまうことになる。第二部でこれがあった時に、もうやってらんねえぜ、とステージから引っ込んでしまった。ありゃりゃえらいこっちゃでこれ、と見ていると、前の方の席ではアンコールを要求するような手拍子をしてたりする。いやいやそりゃちょっと違うだろ、と思っていると「しばらくお待ちください」なんていうアナウンスが流れた。やがて10分ほど経って、再び御大が登場した。
なんとか気を取り直して数曲、けっこう良い調子でやっているときに、今度は2階席の後ろの方(わたくしの座っていた席の斜め後ろあたりの至近距離)で、ごほっ、とけっこう破壊力のある感じの咳が一発。これで一気にやられてしまって演奏を中断。どころか、そのままタオルを放り投げてステージを降りてしまい、あっけなく本日の公演はこれにて終了、となってしまった。
いやまぁ、なんだかなぁ… という感じだ。気難しい爺さんやな、とは思うが、まあ気持ちはわからんでもない。音楽のかけらをぱらぱらっと撒いて、それに引き寄せられてどこかから漂ってくるフレーズをある種の磁力で引き寄せ、結晶化していく、そんなイメージだ。ちょっとでも気を抜くと、すぐにどっかに飛んでいってしまったり、ばらばらと崩壊してしまったりする。そんな、並外れた集中力を要するデリケートなことをやっているわけで、観ている我々としても、今まさに目の前で、音楽が誕生する瞬間に立ち会っているのだという自覚は必要なのだろう。だから、さすがに息を止めるわけにはいかないが、彼に最大限の協力をできるような努力はするべきかと。
そんなわけで、誰が悪いとかいう話でもないのだが、主催者側はもうちょっと配慮が必要なんではないかな、と思った。この爺さんはかなり気難しいから、こんなところに注意してね、なんていう事前の案内があってもよろしかろう。そりゃそんなことをしたらチケットの売れ行きに影響するだろうけどね。だけどそのあたりをちゃんと理解したオーディエンスのみが参加するようになれば、キース本人もオーディエンスも、みんな幸せになれるんじゃないかな。それでもちゃんとチケットは完売するよ、心配するな。