野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

7デシリットルの忙しさ

「頭の中身が漏れ出る日々」で一瞬にしてわたくしを虜にした北大路公子さんの「枕もとに靴」が文庫になった。そりゃ読まないと。

枕もとに靴: ああ無情の泥酔日記 (新潮文庫)

枕もとに靴: ああ無情の泥酔日記 (新潮文庫)

もともと、「エンピツ」という公開日記サイト(今で言うところのブログ、とはちょっと違うようだ)のコンテンツだったものがあまりに面白いので本になった、ということらしい。つまりこれが北大路さんの最初の作品ですな。だから、以前に読んだ「頭の中身が漏れ出る日々」とか「生きていてもいいかしら日記」よりも、さらに古い話なわけだ。
で、本当に、徹頭徹尾どうでもよい話ばかりであり、その何の役にも立たなさの純度は極めて高い。加えて、そこかしこにホラ話が散りばめられている。著者いわく、「呼吸をするようにウソをつく」とのことだが、まさにその通りだと思う。特に後半では、「凍り玉」、「河童の巣開き」、「春洗い」、「雨宿り室」、「夜祭り」、「過去読み」、「夏送り」、「かつぎ屋」というような、酔っ払いの妄想と現実のあわいにぽっかりと湧いて出たような、妙にリアリティのあるホラ話が次々と繰り出される。これらはもはやファンタジーと言っても良いレベルで、ちょっとテイスト的には「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」(の「世界の終わり」の方ね)みたいな話が、「夢十夜」のような雰囲気で語られる。これらが秀逸なんである。こんなにクオリティの高いホラ話を作れるなんて、実にもう尊敬の念を禁じ得ないのである。