野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

シモンのブリコラージュ

たしか朝日新聞の書評欄で見かけた「まぐだら屋のマリア」。文庫になったことだし読んでみなければ、と思っていたのだ。

修行していた東京の老舗料亭で食材の使い回し(どっかで聞いたような話ですな)が発覚し、逃げ出してきた料理人の紫紋(シモン)が山陰のとある寒村に流れ着く。「尽果(つきはて)」という名前のバス停で降りたところにある「まぐだら屋」という定食屋に転がり込むのだが、そこにいるのは、いかにも訳ありな感じのマリアという女性で。そう、マグダラのマリアにシモン。後で丸弧(マルコ)も余羽(ヨハネ)も登場するし、料亭で食材の使い回しを指示していた料理長は湯田(ユダ)だったりする。そして、まぐだら屋の老女将の家は土地の有力者で桐江(キリエ)なのだな。キリエ・エレイソン。
ちなみに「まぐだら」というのは、マグロと鱈が合体した伝説の怪魚で、その昔、姫の病気を治すための薬草を求めて尽果にやってきた乳母が崖から転落し水死した後に… などという、いかにもな言い伝えまででっち上げてしまうのがすごい。
尽果というのはある種のアジールみたいなところで、マリアにせよマルコにせよ、なんだかんだと訳ありな人々がやってきては居ついてしまう。誰もそれを詮索はしないけれども、彼らの抱える事情であったり壮絶な過去というのが、物語が進むにつれてわかってきて。
そこで深く感動する、というのが本筋なんだろうけど、個人的には、やはりシモンの作る料理がとにかく美味しそうなのが気になる。適当にその辺にある材料を使って、手際良く美味しそうな料理を作る、ていうのに弱いのですよわたしは。村上春樹の小説なんかでよくある、あの感じ。鮭のタタキなんて食べたことないし。いや、ええ話でございました。