野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

キョンキョンのおすすめ

チャーチルにすっかりやられてしまい、ちょいと軽いものでも、と書店へ行くと三浦しをんの「木暮荘物語」なんてのが文庫になっている。おお久しぶりにしおんいってみるか、というわけで。

木暮荘物語 (祥伝社文庫)

木暮荘物語 (祥伝社文庫)

小田急線の世田谷代田駅から徒歩5分のところにある、築数十年というボロアパート、木暮荘。そこの住人とその周辺の人々が織りなす心温まる物語… なんてことを思ってしまうかもしれないが、そこはさすがに三浦しをん、そりゃまあちょっとええ話的な要素も無いわけではないのだけど、ただひたすら無様だったりちょっとホラーだったり、どうにも痛々しかったり何だかやりきれなかったり、そう一筋縄ではいかないわけで。
登場するのはみんな、どこかが極端にズレていたり何かがぽっこりと欠落していたり。
テーマはたぶん、セクシュアリテとは、エロスとは、母性とは何か?そういうラディカルな問いかけなのだろう。けっこう難しいのだ。こういう、直接取り扱うのが難しいものについて考えるときは、とにかく極端に振ってみたり、「そうでないもの」について考えてみる。そういうことなんだと思う。
そういえば。
手塚治虫は、「人間とは何か」「死とは何か」という難しいテーマを扱うために、直接それらを描かなかった。「人間とは何か」に対してロボットを登場させ、「死とは何か」そう言えば、「死とは何か」問うために、を考えるために不老不死の人間を出してくる。
てな話をどこかで読んだことがある。
だから、生殖能力のほとんど無くなった木暮老人や、子どもを産むことのできない光子が登場するわけだ。なるほど。
そう考えると重いテーマなのに、あくまでリーダビリティは高く、エンターテインメント性もしっかり。三浦しをん、恐るべし。