野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

5秒間は反則し放題?

朝日新聞日曜版の読書欄に、「クラシックCDの名盤」という本の三浦しおん氏による書評が載っていた。
いわく、3人の評論家が名盤を紹介するのだけど、それぞれの評価がバラバラで、しまいには紙上でのバトルまで勃発する、と。なんだそれちょっと面白そうじゃないか、と思って手にとってみたわけだ。

クラシックCDの名盤 大作曲家篇 (文春新書)

クラシックCDの名盤 大作曲家篇 (文春新書)

ところが「まえがき」を読むといきなり、

前二著では他の二人の原稿をあらかじめ読み、応答の要素が出て、そこに妙味もあったのだが、今回はバトルなし、という約束になった。

などとある。なんだよおい、話が違うじゃないか!というか間違った本を選んだか!?「前二著」というのは、この「大作曲家篇」に先立つこと10年間ほど前に、「名曲篇」「演奏家篇」があり、いずれも新版まで出ているとか。実はそっちのことだったかしまったなと思いながら読み始めると、いきなりベートーヴェンの項で中野先生が

コパチンスカヤの弾く「ヴァイオリン協奏曲ニ長調を採り上げ、ベートーヴェンの代表作の一つとして縦横に語る ーー いかにも「宇野先生らしいな」と思った。(p.38)

などと言い始め、

直ちにCDを購入して試聴した感想は「困惑!」の一語。おっしゃる「面白い」というお言葉には100%同意なのだが、コパチンスカヤの演奏は私に言わせれば「面白おかしい」だけ。

と早速disっている。おい、「バトルなし」っていう約束じゃなかったのかよ。
そもそも約束といえば、それぞれの作曲家についてベストスリーの曲をあげ、推薦盤を記す、ということになっているのに、作曲家の好き嫌いによって1曲しか挙げなかったり(宇野先生)5曲も6曲も挙げる(中野先生)ってのはどうなんだ。このジジイども好き勝手しやがって、と思ったのかどうかは知らないが、福島先生もブラームスシベリウスではしれっと「交響曲全集」なんて選んでるし。反則だろそれ。
宇野先生の好みでは、バッハは「線香臭く」、ブラームスは「陰気」で、ショパンは「暗い」のでお気に召さないのだそうだ。「音楽は明るくなくては」とか。つまり、わたくしの好みとはまったく逆だということだ。だけど文章は宇野先生がいちばん面白い。ショパンの項で中野先生曰く

巷間「宇野節」と称されている独特の文体を駆使された、歯に衣着せぬ縦横無尽のご健筆(p.116)

である。なるほど。いや、この中野先生の文章もまた、なかなか調子が良くてわたくし好みである。
おおむね年代順に並んでいるため、後ろの方になると、バルトークとかショスタコービッチとか、どうも馴染みの薄い作曲家が目立つため、ちょっと退屈になってくる。けれども全体に、お三方とも、文章から音楽に対する愛に満ち溢れているのが感じられる、楽しい本だった。ぜひ「演奏家篇」も読んでみたいと思う。