野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

フロイト先生もびっくりだろ

以前にさる人が激賞していて、それ以来ずっと気になっていた「私の男」。


私の男 (文春文庫)

私の男 (文春文庫)

 
やっとのことで手に取った。わりと最近映画化されたんですな。
いやしかし、これを映画にしますか…
カニバリズムと並んで、高い強度を持つインセスト・タブー。こんな題材で、陰惨な話になるのかと思ったら、なんだかそうでもなく、いやもちろん心暖まる良い話、なんてものでは決して無いのだけど、隠微にしてどこか甘美で、これをどう捉えてよいのかわからず戸惑う。
強いタブーというのは、人が根源的に強く惹かれるものを持っていて、だからこそタブーになっているのかもしれない、などと思ったり。
物語は主人公の花が結婚するところから始まり、時系列を逆に辿りながら、養父である淳悟との関係を複数の登場人物の視点で語っていく。はてこれは何なんだ?とか、何で?と最初に疑問に思ったことが、物語の古層を掘り返していくうちにだんだんと見えてきて、でも最後までわからないのが、淳悟がいったい何を考え、どう感じてきたのかということ。彼の口からは最後まで語られることはなく、根本的な部分の謎は宙づりのままだ。
そんなわけで、色んな観点でけっこう衝撃的な一冊。こいつあ参りましたね。