野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

たしかパインヒルとかいう名前….

むかし東京に出張したときに、鶯谷に泊まったことがある。少なくとも一回、ひょっとすると二回。
もう今から10年以上も前の話だ。けれども当時から、JR鶯谷の駅前にはラブホテルが林立しており、いわく言いがたい雰囲気であったのは記憶している。そしてあの、言問通り側と、駅をはさんで反対側の墓地だかお寺だかとの落差…
なぜ、墓地や寺院の近くにはホテル街ができるのだろう。大阪でいえば、谷町九丁目あたりとか、梅田の太融寺あたりとか。聖なるものと俗なもの、エロスとタナトス、その土地のある種の磁場みたいなものが、そういう相反するものを引きつけた結果なんじゃないかという気がする。まったく何の科学的な根拠もない(あるわけないだろそんなもん)のだけど、こういう考えってのは、なぜだかわたくしを魅了してやまないのだな。名著「アースダイバー」は上野まで行きながら、残念ながら鶯谷までたどり着くことは無かったようだが。
この異界・鶯谷で、そこに蠢く人々と(ときにはフィジカルに)交わりながら、そのディープぶりをほじくり返す。そこからは、高度資本主義の行き着く先や、ノスタルジックな昭和の日本や、意外と色んなものが見えてくる。セクシュアリテの多様性とか、日本社会の本音と建前とか、ナショナリズムとか、腐臭を放つ国家権力の末端とか。「東京最後の異界 鶯谷」っていうのは、そんな本だ。

東京最後の異界 鶯谷 (宝島SUGOI文庫)

東京最後の異界 鶯谷 (宝島SUGOI文庫)

とても面白い。
ちなみに十数年前にわたくしが泊まったのは、いたって普通のビジネスホテルだった。我ながらつまらんことをしたものだと思う。