野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

イアンvsパトリック

「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」とは、プロイセンの鉄血宰相ことオットー・フォン・ビスマルクの有名な言葉だ。
言葉尻だけ見たら、経験に学ぶだけでも十分に賢いだろ、と思ってしまうのだが、彼の言わんとしているのはそういうことではないらしい。
いやまぁ、それは良いとして。
佐藤優が世界史を語る。いかにもありそうなのに今までなかった本だ。タイトルが「世界史の極意」ってのはちょっとばかしいただけないけど。何でもかんでも極意とか言うなよな、ってね。
世界史の極意 (NHK出版新書 451)

世界史の極意 (NHK出版新書 451)

 
何のために歴史を学ぶのか。歴史をアナロジカルにとらえることで、いま起こっていることを読み解き、間違った方向に進まないようにできるというわけだ。そう、歴史は繰り返す。はじめは悲劇として、二度目は笑劇として。とマルクスは言ったんだとか。いや、今の我々がおかれてる状況ってあんまり笑えないと思うけどな…
とりあえずそれは置いといて。
資本主義・グローバル化帝国主義という流れ、ナショナリズムと民族問題、そして宗教紛争。これらの問題の本質を世界史から探り、類似の事例をひもときながら、アナロジカルに解説する。
すごくよく似た事例なら良いけど、実はこれってけっこう難しいんじゃないかな。沖縄問題とスコットランド独立問題とウクライナ危機をアナロジカルに考えるなんて、後知恵ではああそうか、ってことになるけど、そう指摘されるまではなかなか思いつかないんじゃないか?少なくともそれなりの訓練を積んでないと難しいと思う。一見かけ離れたものどうしの間に相同性を見出すっていうのは、けっこう高いレベルの知性を必要とするはず。ま、だから教養として世界史を学ぶことは武器になる、と言ってるんだろうな。
ちなみに参考図書として山川出版社の世界史の教科書を挙げているけど、これわたくしも高校の時に使っていたのがやっぱり山川の教科書で、なんぼ読んでもちーとも頭に入ってこなかったんだよなあ(最近あらためて読み直してみたけど同じだった)。ただ最近は世界史AとBに分かれているようで教科書も変わったみたいなんで、多少は事情も変わったんだろうか?こちらの頭の出来に問題があるとすると、これはもういかんともし難いのだけど…
あと、ところどころで紹介されているイギリスの「The Impact of Empire(帝国の衝撃)」っていう歴史教科書。これがすごい。単に歴史上のできごとを羅列するだけではなくて、例えばアイルランド問題について、「ユニオニストのイアン」と「ナショナリストのパトリック」という二人のモデルを登場させ、どのように彼らがそれぞれの言い分を語るかを読者に考えさせる、てな内容になっているとか。これが中学生向けの教科書だっていうんだから恐れ入る。こうやって複数の視点で歴史をとらえる訓練を子どものころからやっているわけですよ。ヘイトスピーチなんかやってると、日本人て本気でバカだと思われますぜ。