野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

見るなと言われれば見たくなるのが人情ってもんで

黒いオルフェ」という映画がある。
わたくしは観たことがないのだけど、妻によれば「なんか、ひどい映画やねん」と。で、どんなストーリーなのか調べてみると、うむ、確かにこれは、何だこりゃ?という感じだ。この映画はギリシャ神話のオルペウスの物語がベースになっている。それを知らないと、何じゃこりゃ?なのだ。聖書と同様に、ギリシャ神話に関する知識ってのも西洋の文化を理解するには必須だったりするわけですね。そういえばフロイトせんせいが名付けた「エディプス・コンプレックス」だってオイディプス王の物語がベースですわね。やれやれ。
というわけで阿刀田高ギリシャ神話を知っていますか」。

ギリシア神話を知っていますか

ギリシア神話を知っていますか

ええ、少しぐらいは。と思っていたけど、いやあまだまだ。
膨大なギリシャ神話の中からいくつかをピックアップして、あんた見てきたんかと突っ込みたくなるぐらいに話を膨らませ、過剰に文学的な装飾を施しながら、しかし取っ付き易く解説してくれていて、なかなか面白い。単に紹介するだけでなく、著者の独自の見解(あるいは偏見?)など所々に挟んでいるのもまた楽しい。
それにしても本当に神話というのは、旅に出る、試練を受ける、これを(美しい女に助けられ)克服し、そして帰還する、という話型になっているのだなと改めて感心した。
加えて、「新しい環境に巧みに適合した女」についても、これまたギリシャ神話には多く出てくるのだな。この感じ、そうだ映画「 シェルタリングスカイ」を観た時に、旅先で夫に死なれた女性が、なぜか最後は砂漠の隊商に着いて行き、そこの愛人に納まりかえっているというアレだ。なんとも言えない違和感を覚えながらも、うーむなるほどそういうもんですか、と妙に感心したものだ。
あとオデュッセウスの話。巨人ポリュペモスに名前を訊かれ、「だれでもない」(ギリシャ語で「ウーティス」なんだそうだ)と答えたことにより助かったのに、最後に調子に乗って本当の名前を明かしてしまったために、結局ポセイドンの呪いをかけられてしまい散々な目に遭う、なんてまるで陰陽師じゃないか。安倍晴明は最後まで名前を隠していたから羅城門のバケモノを退治できたのだ。博雅くんはついうっかり名前を言ってしまってあっさりやられていたけど。西洋にも「名前は呪(しゅ)」みたいな考え方があるとは知らなかった。
という感じで、様々な物語の原型みたいなものがあちこちに見られ、いろいろ考えるところもあり刺激的でございました。