野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

Qui est Charlie?

2015年1月7日パリ市内で、風刺週刊誌シャルリ・エブドの編集部を、「ムハンマドを侮辱した」として2名のアルジェリア系フランス人が襲撃し、12名を殺害した。
この事件を受けて、世間は一斉にこれを表現の自由に対する挑戦であるとして糾弾し、1月11日には”Je suis Charlie”(「私はシャルリ」)のデモまで行われた。はたから見てるとシャルリ・エブドもちょっとやりすぎな部分はあって、それはあまりに一方的すぎるんじゃないの、という意見はあった。わたくしもどちらかというとそんな感想を持っていた表現の自由は尊重されるべきだしテロを正当化するつもりは毛頭ない、けれども同時に、人が精神的な拠り所にしているものを茶化して(それも下品な仕方で)面白がるってのはあんまり感心しない。もうちょっと反省した方が良いんじゃないのあんたたち、という感じだ。
しかし、少なくとも日本にいて聞こえてくるフランス国内からの声は"Je suis Charlie"一色だったように思う。その辺りも、なんかちょっとイヤというか気持ち悪いなと思っていたのだが、エマニュエル・トッドの意見は"Je suis Charlie"ではなかったようだ。
今年の1月に「シャルリとは誰か?」が出た。ぜひ読んでみたいと思いながらなかなか手を出せず、やっと読み始めたもののこれまたずいぶんと時間がかかってしまった。

"Je suis Charlie"デモで掲げられているのは表現の自由であった。が、それは欺瞞である、とトッドは断ずる。表向きはそうなっているし参加者もそう思い込んでいる節はあるが、実はそこにあるのは排外主義に過ぎない、と。この排外主義は宗教の衰退と格差の拡大によって、家族関係に関して自由主義的で核家族のフランス中央部と、権威主義的で直系家族の周縁部に対して、それぞれ異なるメカニズムでもたらされた。というのを、人口学者らしく各種の統計データをもとに分析し、証明してみせてくれるわけだが、残念ながらその複雑な理路を逐一咀嚼し理解していくことは、少しばかりわたくしの頭の処理能力を超えていたように思う。であるが、漠然とながらトッドの主張はわかるような気がする。
とりあえず、フランス国民を家族構造により大きく二種類に分類していくというアプローチがさすが人口学者、という感じだし、結局は同じ排外主義にたどり着くのだという分析も面白い。

ちなみに、難儀しながらこの本を読んでいる間にBrexitのニュースが入ってきた。あの件も、なんだか一筋縄ではいかない話のようだが、どうも本書の内容とすごく関連が強いような気がして仕方がない(どう関連するのかはうまく説明できないけど)。個人的には、EU残留と離脱のどちらが本当に正しい選択なのかはよく分からない。が、まさか本当に離脱の方向に行くことは無いだろうとタカをくくっていた。しかしどうやら、離脱に賛成した中には「移民が多いことが、各種の問題の原因になっている」と信じ込まされている人々が少なからずいるようで、ちょっと大丈夫かおい、と思わずにいられない。ところでトッドに言わせればEUなんてその本質は「ドイツ帝国」で、彼の著書『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』にある”「ドイツ帝国」の勢力図”においてUKは「離脱途上」に分類されていたことを今になって思い出した。あれまあ。