野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

構造・神話・労働

神去なあなあ日常』の続編、『神去なあなあ夜話』が文庫になりましたね。幸いにしてKindle版も出ている。ということで早速ポチりと。

母親と教師に騙されて(?)高校卒業と同時に三重県の山奥にある村で林業に従事することになった青年のお話、というのは前作と同じ。主人公の勇気くんがこっそりPCに記録していたメモとして、仮想の読者に対して語りかけるという形式は、これ前作もそうだったかな?うまく思い出せない。
前作と違うのは、林業見習いも一年が経過してそれなりに慣れても来て、ちょっとばかし余裕が出てきているというところか。仕事もだんだんに面白くなってきて、林業の魅力について勇気くんもあれこれ語るわけですな。実際のところ林業って具体的にどんな仕事なのか知らないわけで、こうやって語られると、ほーなるほどなかなか面白そうじゃないか、と思ってしまうのだ。んなもん本当はめちゃくちゃキツいんだろうけど。
ちょっと余裕が出てくると、山で見聞きするもの、感じるものもまた違ってくる。それが物語にも反映され、昔からの神去村の言い伝え、伝説、神話などもあれこれ出てくるのだが、それがまたどこかちょっとトボけている。細部が雑というか、まさに「なあなあ」なわけだが、いや待て神話というのはもともとそんなもの、のはずなんだよな。大きな構造は世界中共通だが、その要素は交換可能で細部はグダグダ、と。さらに考えてみたら、この物語自体が、若者が旅に出て神話の話型を取っているじゃないか(未完だけど)。ということは、今後もさらに続編が出てくることが予想されるこのシリーズで、若者は旅に出て美しい女性も登場したということは、いよいよ次回作あたりで「父親殺し」か。
「神去なあなあ」シリーズにおいて、勇気にとっての父親のメタファーとは何か。続編が出るまでには考えておかなければいけない宿題だ。