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野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

You can't always get what you want

読書

実は先日の『問題は英国ではない、EUなのだ』と併せて『グローバリズム以後』も買っていたのですよ。
これまたエマニュエル・トッドへのインタビュー(こちらは短めのものが多い)を集めたものだが、まあだいたいトッドの主張するところはそう大きくは変わらない。というかそう簡単にころころ変えてもらったらちょっと信用できないわけだけども。

「近代化」というのをトッドは、(1) 共同体的な信仰の喪失、(2) 高齢化、(3) 社会を分断する教育レベルの向上、そして(4) 女性の地位の向上、という4つの要素で捉えていて、そういう見方をしたときにこれからの世界はどうなっていくのか、てなことを語っている。だからこそ彼は、出生率であるとか識字率とか進学率といった統計数値をもとにあれこれの分析と予測をするわけだ。そう、トッドといえばソ連崩壊とか中東の民主化を予測した、てんでちょっと予言者っぽい扱いになってるフシもあるし、まあわたくしなんかもそういうところから興味をもったりもしている。けれども本書に収録されている1998年の(ユーロ導入前の)インタビューでは、あんなものうまくいくはずがない、2005年には崩壊しているだろう、てなことを言ってたりする。とはいうものの、やーいやーい予言はずれてやんの、とバカにするのもちょっと違っていて、2005年どころか2016年の現在でもまだユーロは生きているものの、その周辺にまつわる諸々の問題というのは、やはりトッドの指摘に対しては耳を傾けてみるだけの価値があるということではないのかと思うのだな。何しろトッドの話の時間的スコープはとてつもなく長い(まあ人類学者なんだから当たり前なんだけども)。だから、2016年にもまだユーロあるやんけ、というよりは、これからおこるであろうと彼が言ったことの意味であるとか世の中の長期的なトレンドみたいなものを、もう少しじっくりと見た方が良いんだろうな、と思う。
とはいうものの、彼の主張する「日本も核武装を検討するべきだ」というのにはどうにも賛同しかねる。いやそりゃ「検討」だけならまだ良いのかもしれないけど。もともと「抑止力としての核兵器」なんて話は、各国の指導者がある一定以上の判断力と知性を持っている(最低でも正気を保っている)っていうのが前提じゃないですか。しかるにアメリカでは来年から不動産屋くずれのキ○ガイが核ミサイルのボタンを持つことになるしフランスだって相当危なっかしいし、そんな中で日本なんかもうすでに、あんな感じだし。
そもそも「民主主義は責任感のあるエリートを必要としている」なんて言ってて、そこはまったくその通りだと思うけれども、その「責任感のあるエリート」ってのがいなくなってきてるからあんなことやこんなことになってきてるんでしょ、と言いたい。そんな状況で日本が核武装なんてあーた。もっとも、この議論は時期尚早だ、とトッド自身も言ってるけどね。アメリカの大統領選が終わった現時点で、あんた今でもやっぱり同じこと言うのかよ、とちょっと問い詰めてみたい気もするな。
「白人がちょっと変わったことを言ってるからってぐらいのことでトッドごときをありがたがってどうするんだ」てなことをおっしゃる向きもあるが、それでもわたくしはまだ彼の思想に興味がある。新書で読める彼の著作はひととおりカバーしたはずだ。いよいよ単行本に手をだす時がきたのかもしれない。まずは「帝国以後」あたりからか。どきどき。