野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

アートの島なんだから別に来なくても良いじゃないか

個人的に007祭りを開催中なんであるが、それならばぜひ、とさる方が勧めてくださったのが『ジェームズ・ボンドは来ない』という小説だ。

うーん松岡圭祐か… 『千里眼』シリーズも最初は面白かったけど、途中でいい加減うんざりしてきたんだよな… 初めて読んだ『バグ』(後に『水の通う回路』となる)は面白かったけどね。などと思いながらも読んでみた。
直島が町おこし(?)のために007映画のロケを誘致する、という話なわけだが、これが実に、007シリーズを観たわたくしの感想をうまいこと言い当てているわけだ。
007シリーズの次回作の原作と言われている小説を読んだ、島の老人の感想は「こんな紙芝居も同然の話、ほんとに映画になんのかいな」。それに別の老人が答えて曰く、「007ってのは基本、紙芝居やろ。昔の映画でもクルマの助手席が屋根から飛び出したりしとったで」。
そうだよなあ。そして、この小説の主役であり、誘致活動に入れ込む遥香の友人である柚希は「全体的に馬鹿っぽいんだって」と言って顔をしかめる。「出てくる女がみんな、メンズマガジンのグラビア撮影みたいなヘアメイクを施してさ、ボンドさんだっけ、あのあじさんに会ったとたんに誰もが一緒に寝たくなるって、作ってる人なに考えてんの?おかげで悪者に殺されちゃってる女までいるし。映画として割りきっても、感動的なシーンひとつない。泣けるとこも皆無ときてる」。
えらい言われよう。でもその通りだと思う。まあ言ってみれば、「いまやスパイ映画の主流は『ミッション・インポッシブル』と『ボーン・アイデンティティ』でしょ。007なんて旧態依然としたシリーズ、誰も注目しないよ」(遥香の同級生で、映画ヲタの高校生のセリフ)ということなのだと思う。ちなみにわたくしが初めて観た007は『カジノ・ロワイヤル』だ。この本の中で「007シリーズで初めてともいえる、まともな映画だった」と書かれているが、全くその通りだ。『カジノ・ロワイヤル』を観て、へーけっこう面白いやん。ダニエル・クレイグなかなかカッコええし、と思ったのだ。なので他の作品を観て「何じゃこりゃあ!」となったわけだ。
この本を読んだ直後にさっそく、日本が舞台になっている『007は二度死ぬ』を観たが、いやはや何とも。ショーンコネリーが日本人に化けて海女と結婚する、てなあたりではさすがに「いやそれはないやろ」と思わずテレビの前で突っ込んでしまったものだ。
もっとも、時代背景であったりテクノロジーであったりというのが現代と全く違う時代の映画に対して、古臭いとかなんとか言って糾弾するのはフェアじゃないとは思うけどね。だからあの当時のはめ込み合成を使ったレイドバックなカーアクションも、それはそれで味があってよろしいのです。それにしても姫路城を忍者のブートキャンプにするのはあんまりだと思うけど。
てなわけで、大変に楽しめた一冊でございました。久しぶりにまた松岡圭祐作品でも読んでみても良いかな… と思いつつも『万能鑑定士Q』シリーズの表紙のデザインとあのボリュームにげんなりしたことでした。