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野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

ノーベル化学賞とは別の人ですよ

読書

たぶん中学校の社会科の授業あたりで昭和史みたいなものがちょこっとあって、1950年代の後半から1970年代にかけて高度経済成長の時代があった、と習ったのだと思う。そのころ池田勇人首相が所得倍増計画というのをぶち上げて、んなアホな、と言ってたけれども本当に倍になった、とか。

危機の宰相

危機の宰相

『危機の宰相』を読んだ。タイトルの「宰相」というのはこの池田首相のことだ。
何が「危機」かというと、日米安保条約の改定に対する反対運動が起こり、各地でデモが発生するやらそれを右翼団体やヤクザが襲撃するやらで大混乱に陥った、というようなことらしい。で、その新安保条約にサインした岸信介首相が辞任した後を継いだのが池田勇人首相であったと。なるほど。
ではこれは池田勇人伝なのか、と思って読むと実はそうではなかった。敗戦の後なんとか復興し、そこから日本が成長路線に乗っていくにあたって出てきたスローガンである「所得倍増計画」というのが、そもそもそのコンセプトを誰が考えだし、現実の政策にどういう風に落とし込まれ、どのように実行されていったのか、について実にていねいに取材してレポートされているのだった。人物像ということであれば、池田勇人についてももちろん触れられているのだが、より多くの紙数を割いて詳細に述べられているのは、実はこの「所得倍増計画」の理論的バックグラウンドを構築していった、下村治という大蔵省の官僚(経済学者)だったのだな。
これってわたくしが生まれる前だから、もう50年以上も前の話だ。実は当時から安保法制でもめて、国会では強行採決なんかもやったりして、なんだそんな昔から同じようなことやってたのかよ、とちょっと呆れたり。でも、なんだかいろんな経済学者が言ってることをかき集めて無節操に「全部のせ」にして、じゃぶじゃぶお札刷って終わり、かと思ったら株でスっておい俺らの年金どうしてくれるんだ、てなことになったアベノミクスに比べればこの所得倍増計画ってのはずいぶんとしっかりしてるじゃないかと思える。むかしは政治家も官僚もちゃんとしていたんだなあ、としみじみ。
地味な話のはずなのに、けっこう面白かった。沢木耕太郎さん、さすがです。