野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

コーヒーに蜂蜜とはこれいかに

『リバース』が連続TVドラマで放映中てことで、どこの書店に行っても原作が平積みになっている。それではひとつ読んでみることにしましょう。

リバース (講談社文庫)

リバース (講談社文庫)

 

 美味いコーヒーを淹れることができるという以外にこれといった取り柄のない深瀬くん。高校ではスクールカースト中位でどうもぱっとせず、大学でグレートリセットを試みるも、やはり「リア充」にはなりきれず。そんな大学時代にゼミの仲間と行った旅行先で友人が交通事故で死亡する、てなことがある。その件を10年も経ってから誰かが蒸し返し、「深瀬和久は人殺しだ」との告発状を送りつけてくる。
この深瀬くんというのがまことに辛気臭い男に仕上がっており、彼自身の自意識を持て余し屈託を抱えた様子というのがまた実に見事だったりする。そして件の事件に関連する、彼の大学時代のゼミ仲間の連中というのもまた、リア充でありながらどうにも鼻持ちならなかったり身勝手だったり。こういう、キャラクター造形のネガティヴ部分を描くのがやたら巧いのも、湊かなえが「イヤミスの女王」と呼ばれる所以ではないかと思う。
深瀬くんが友人の事故死の真相を探るべく、あれこれと調査を進めて行く終盤部分、ちょいと驚くような展開になりつつも、なんだか心暖まるエエ話の予感。あれま湊さん、芸風を変えなすったかと訝しんでいると、いやいやそんな一筋縄でいくわけもなく、最後はすっかりしてやられたぜ、というわけで、やはりさすがは「イヤミスの女王」。いやはや恐れ入りました、というこの救いの無さよ。