野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

正統派の後には鬼才で

久しぶりにラーメン人生JETで、醤油ラーメン。

正統派っちゅう感じで、シンプルだけど美味いですな。

てな話はどうでもよくて。
鬼才・アファナシエフのコンサートへ行った。会場はザ・シンフォニーホールで、オールベートーヴェンプログラムだ。ピアノソナタから8番、14番、17番、そして23番。ベタですな。
ステージに現れたアファナシエフは、ぱっと見、その辺の機嫌悪そうな爺さん。それもけっこうヨボヨボだ。ステージ中央のピアノまでやってきて椅子に座ると、ほとんど間をおかずに無造作な感じで、ばーん、と最初の和音を鳴らした。ピアノソナタ第8番「悲愴」だ。第1楽章をしばらく聴いて、何じゃこりゃあ!と仰天した。ベートーヴェンのいわゆる「3大ピアノソナタ」は、変態グレン・グールドから始まって、ヴィルヘルム・ケンプマウリツィオ・ポリーニウラディーミル・アシュケナージ、そしてヴィルヘルム・バックハウス、といくつか聴き比べたが、こんな怪体なのは聴いたことがないぞ。何と表現して良いのかわからない。が、まず思いついた言葉は「ふてぶてしい」だ。まあヴィジュアルに引っ張られている面がなきにしもあらず、かな。いやしかし、重厚かつ豪快(そしてちょっと雑)で、圧倒される。何だか大王に拝謁してお言葉を賜っているような気分だ。
そして第14番「月光」。あの有名な第1楽章を聴いてもルツェルン湖に映る月光なんて平和なものはあまり感じられず、油断するとなんだか冥界に引きずり込まれそうだ。もっとも「月光」なんてのは本人が付けたタイトルではなく、もともとは「幻想曲風ソナタ」なのだから、実はこっちの方が正しいのかもしれないけど。のどかな第2楽章から一転して疾走感あふれる第3楽章、これはケンプあたりだと、どたどたどた、という感じで、速く弾いているにもかかわらずもたつき感があるのだが、アファナシエフの場合はしっかり突っ走っている感じはする。が、それは例えばチーターが軽やかに走る、というのとは全く違っていて、カバって意外と脚が速くて、時速40kmで走ることができるんだぜ、みたいな印象だ。そう、カバってけっこう凶暴らしい。
ここでいったん休憩。
後半戦は第17番「テンペスト」から。爺さん再びステージに登場して、また無造作に弾き始めるのかと思ったら、今度はひと呼吸おいてから弾き始めた。「もうちょっと勿体つけなさいよ」とか何とかアドバイスされたんだろうか(誰に?)。しかしまあこのアファナシエフの演奏スタイル、ばーんと弾いては鍵盤の上で手をひらひらさせたかと思ったら、ぽつん、と弾いて両手をだらーん、ちょん、と弾いて時々片手で目をこすったり(乾燥してますか?)鼻を掻いたり、じっと考え込むそぶりをしてみたり(次に何弾くか忘れた?)と実にエキセントリックで、見ていて飽きない。
そして、第17番を弾き終わったところでいったんステージから出て行ってしまった。おいおいまだ終わってへんやろ、何しとんねん?と思っていたら、すぐに出てきたけど、あれいったい何だったんだろう?
さていよいよラストの第23番「熱情」。特に第3楽章なんかもう、ペダル踏みすぎてうわんうわんなっているところにばんばん音を畳み掛ける、まさにアドレナリン全開のシーツ・オブ・サウンドという感じで実にエキサイティング。弾き終わったときにはぐったりとピアノによりかかる始末だ。見るからにへろへろになってステージから引っ込んだ爺さんに、ちょっと気の毒だなとは思うがアンコール。どこかで聴いたことがあるような気がするけど何だったっけな?と思って後で確認したらショパンマズルカだった。

ただし第45番、と書いてあるのはガセネタで、これは第47番が正しい。帰宅後にウチにあるルービンシュタインの録音で確かめた。

いやまーとにかく、面白かったなー。「面白い」という表現は、クラシックコンサートの感想としてあまり適切ではないような気もするのだけど、面白かったんだから仕方がない。