野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

紺屋の白袴ってやつですね

白い巨塔』もついに最終巻、第5巻だ。

白い巨塔(五)(新潮文庫)

白い巨塔(五)(新潮文庫)

ありとあらゆる工作をしまくった学術会議選の結果が出て、そして佐々木庸平さんの誤診の控訴審もいよいよ結審てなわけで、そりゃもう忙しいのなんの。ここでついに柳原が転んで、財前君大ピンチ。しかし物証がなくては… と言っているところに、財前君によって浪速大学から舞鶴総合病院へ飛ばされた江川が、「シヨウコアル」(証拠ある)と里見に電報を打ち、舞鶴から大阪へ出てくる。その江川を迎えに里見が大阪駅へ行こうとする。待て あわてるな これは孔明の罠だ。きっと大阪駅に財前が雇ったジャンキーがいて、ホームから突き落とされるぞ。と思ったが、これはどうやらそういう話ではなかったようだ。もしハリウッドでリメイクしたら絶対そういう展開になると思うんだけどなー。
んで財前君、なんと胃癌になってしまう(しかも手遅れ)わけだが、その診断をした大学病院の医者も癌センターの里見も、本人に告知しないのな。いくら当時は告知しないのが普通っていったって、さすがに癌の専門医の財前君はごまかしきれんでしょうに。こういった部分も含めて、やっぱり時代を感じますわねえ。家に帰ると着物に着替える人けっこういるし、病院でもみんなタバコすぱすぱ吸ってるし。まあ昭和30年代の話ですから。今はあんまり聞かないけど、インフォームド・コンセントなんて言い出したのは1990年代、平成の時代になってからじゃないかな。そのインフォームド・コンセント以前にあったのが「医師の権威(パターナリズム)に基づいた医療」ってなわけで、まさにこの小説の舞台になった大学病院ってところはとにかく、パターナリズムの権化、という感じですわなあ。
発表から半世紀以上が経ち、背景の設定、風俗は古くなる一方だが、何度もリメイクされ一定以上の評価を得ているというのは、いまだパターナリズムに律されているダークサイドが、今も変わらず大学病院にはあるんでしょうよ。怖いですねえ。