野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

昔からいろいろあったようで

先日出張へ行った帰り、あまり仕事などする気分でもなく、在来線の特急で読むのに適当な本はないかな、と書店で物色していると「落日の轍」という本が目についた。

落日の轍 小説日産自動車 (文春文庫)

落日の轍 小説日産自動車 (文春文庫)

「小説日産自動車」という副題がついている。
お、と思って手に取り裏表紙を見ると、あらすじに

かつて日産自動車に君臨し“天皇”と畏怖された男・塩路一郎。
(中略)
豪華クルーザーで遊び、愛人を囲い、私利私欲を極めた。なぜ彼は権勢をほしいままにできたのか。(後略)

などと書かれている。
おおっ、ゴーンよりはるか前にこんな奴すでにおったんか。すげえな日産。
と思って購入して読んでみてすぐに、塩路一郎というのは社長ではなく労働組合の委員長だということに気付いた。裏表紙のあらすじをちゃんと読むと、途中の読み飛ばした部分には

組合員二十三万人の労働組合の総帥として、社長人事に影響を及ぼし、経営を歪め、社内紛争を長引かせる一方、

と書いてあるじゃないか。しっかりせんかオレ。
とにかくそんなわけで、労働組合の親分と日産の社長との暗闘、というのがこの小説の主な内容なわけで、昭和の労働組合と会社に関係ってのはこういう感じだったんですかー、となかなか興味深い。
それにしても労働組合のトップってそんなに力あるもんなの?と思うが、単に日産自動車の労組というだけでなく、傘下に千以上の組合を擁する産別の連合組織である自動車総連の会長てなことになると、やっぱり只者ではないんでしょうなあ。
つい先日『アイリッシュマン』を観たところなので、そうするとアレか、ジミー・ホッファみたいな感じなんかな、と思っていたら、こんな会話もあったりする。

「組合のリーダーのステータスは、経営者と対等もしくはそれ以上と考えてる人だからな。欧米のユニオンのリーダーは、プール付きの大邸宅に住んで、自家用の飛行機を持ってる人もいるそうだよ」
「それはマフィアとつながるリーダーのことですよ。アメリカの運輸労組の会長にジミー・ホッファーなんて凄いのがいたそうですが、かれらは団体屋というか請負い業なんです。日本のような企業内組合とはわけがちがいますよ」
(p.191)

なるほど、さすがの塩路先生も「ペンキ塗り」まではやってないってか。
この本、もともとは『労働貴族』という古い小説だったが、今回のゴーンの一件を受け『落日の轍』と改題してリリースされたものであるらしい。すっかり乗せられてしまった。
日産てのはまあ、昔からなかなか大変な会社ですなあ。