野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

どこまでが史実でどこからホラ話なのか

ゲバラ覚醒』『ゲバラ漂流』と、『ポーラースター』シリーズを読んできたものの、思ったよりも手強いなということでしばらく寝かしていた『フィデル誕生』を、やっとのことで読み終わった。

フィデル誕生 ポーラースター3 (文春文庫)

フィデル誕生 ポーラースター3 (文春文庫)

  • 作者:尊, 海堂
  • 発売日: 2019/04/10
  • メディア: 文庫
タイトル通り、前2作はチェ・ゲバラが主役だったのだがこちらはフィデル・カストロが主役。と思ったら前半部分はフィデルの父アンヘルカストロと、友人のフィデルピノ=サントスの物語なのだな。というわけで時代は米西戦争まで遡る。曹操の祖父まで引っ張り出してきて、後漢王朝の腐敗ぶりを詳述するために一巻を費やした宮城谷版『三国志』を彷彿させるな。
何だかんだ言ってもゲバラは大事にされて育った「ええとこのボン」だった。しかるにフィデルはその生まれからして複雑な家庭環境で(父親は金持ちだけど)、虐待までされながらも父アンヘルに対して恐喝まがいの取引をして道を切り拓き、才能を開花させていくという、実に「フィデル… 恐ろしい子!」という感じの、なかなかに読み応えのあるお話になっている。
アンヘルとその友人フィデルピノ=サントス(フィデル・カストロ)がスペイン軍として米西戦争に参加しており、そこでイギリスの若い観戦将校・ウィンと知り合いになる。ウィンって誰よ、と思ったら、サー・ウィンストン・チャーチル。ってまたあんた、そんなあることないこと書いて!
このシリーズでは、やたらと中南米諸国の歴史・政治情勢について事細かに語られる。これがこの小説を読みにくくしている大きな原因だとは思うけど、でも特に欧米列強の帝国主義による搾取、殊に米国によるキューバ支配と収奪は、この先に繋がるキューバ革命の背景を理解する上でも重要ではありますわな。