野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

昔からそんな感じで

盆休みには何かちょっとボリュームのある小説でも読もう。宮城谷昌光三国志が面白かったし今度は『劉邦』あたりどうかな。でもあんまり堅すぎてもしんどいし、もうちょい少年ジャンプ寄りな感じで司馬遼太郎ぐらいにして『項羽と劉邦』かな。
という感じでまずは上巻を読んでみたわけですが。

項羽と劉邦(上)(新潮文庫)

項羽と劉邦(上)(新潮文庫)

いやあ、失礼しました。思ってたよりずっと格調高い。どこか宮城谷版三国志の香りすら感じられる。
実際のところ司馬遼太郎=少年ジャンプ、という認識は少しばかり極端すぎる。
数多くの著作の中には少年ジャンプ的なものもある、ぐらいなところが適切と言えよう。おそらく、少し前に読んだ『風神の門』があまりに少年ジャンプだったので驚いて、その印象があまりにも強く刷り込まれてしまっているのだろうな。
時代設定は戦国時代の後、始皇帝が諸王国を統一した帝国・秦の末期だ。
宮城谷三国志を読むと、後漢末期の王朝が宦官と外戚の恣放・専横により破滅していく様が描かれている。しかしながらそのような腐敗は後漢期に始まったものではなく、そこから400年以上遡るこの時代にはすでに、始皇帝の死後に宦官の趙高がやっていたこととほとんど変わらないのだったということが、この物語の導入部を読むとわかる。
でこの辺りの話をわたくしほとんど知らなかったのだが、劉邦というのは漢王朝前漢)を建てた太祖高皇帝(高祖)であるのだな。
三国志劉備玄徳が「前漢の景帝の第9子、中山靖王劉勝の庶子の劉貞の末裔」だとか何とか言って、結局どういう関係なのだかよくわからないけどもとにかく、漢王朝の正統なる後継者である、なんてことを主張していた。
で、この物語に登場する劉邦のキャラクターってのがもう、劉備とものすごく被っており、なるほど劉備玄徳は間違いなく高祖の末裔であろう、と思わざるを得ない。
いわく、無能なのだけどなぜか愛嬌があり妙に人に好かれる。戦には弱く負けてばかり。しかし逃げ足は滅法速い…
いや、そんなんアカンやろ、と思うが、対する項羽ってのもまた、楚で代々将軍を務めたという名門の出ながら、学問は好まず剣術もイマイチ、勇猛だけども粗暴で残忍なところもある、わりとガキみたいな性格、ということでこちらも相当なもので。
となると項羽 vs 劉邦の楚漢戦争、どちらに転んでもまあロクなことにならないと思うわけですが、これからさき中巻、下巻と一体どうなりますやら。