野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

11次元の人たちですからね

牛を球体とみなす。というのは一般的なジョークだったのか。恥ずかしながらわたくしは、『物理学者のすごい思考法』を読んで初めて知った。

ちゃんとspherical cowという単語があるということは、英語圏を中心に流通しているジョークなのだろう。ちなみにロシアでは「球形の馬」らしい。
馬を球体とみなすこと、というかモデリングをすること自体は、理論物理学者に限った話ではないだろう。問題解決における対象の抽象化と近似、というのは、誰でも(誰でも、は言い過ぎか)やるアプローチで、何を捨象し、どの部分を無視するかが分野ごとに異なるだけの話だ。
問題は、そういう手法を適用する対象を、日常生活のあれこれにまで無分別に拡げてしまっているというところなのだろうな。
著者によれば「理論物理学はこの世界のあらゆる現象を数式で解き明かす学問」なのだから、問題解決のアプローチとして、宇宙も素粒子も牛もギョーザも同じように扱って何の不都合があろうか、というわけだ。
うん、まあそれはその通りだ。その通りだがやっぱりそれは、「物理学者のけったいな思考法」とみなされても仕方ないわな。

何だかもう、理論物理学者っていうのはやっぱりすごい。
小説やマンガ、あるいは映画などで描かれるマッド・サイエンティストの奇行・奇習はあながち誇張ばかりでもなさそうだし、そこには合理的な理由もあるように思えてくる。そして、少しばかり共感を覚えなくもない。
なかなか面白い本だった。