野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

まんをじして

村上春樹といえば僕の好きな作家の一人で、彼が絶賛するのがスコット・F・フィッルジェラルドの「グレート・ギャツビー」だ。「ノルウェイの森」に出てくるワタナベ君も愛読していた。
十数年ほど前に、僕も読んだことがある。正直、何がどうすごいのか、よくわからなかった。ひょっとして翻訳が悪いんじゃないか、と思って原著も読んだ。何ヶ月もかけて。それからまた数年後に、日本語訳を読んだ。1回めに読んだときとは、ちょっと印象が違った。けど、そんなに絶賛されるっていうのは、やっぱりもひとつ理解できなかった。
村上さんはカーヴァーやカポーティーの小説をたくさん翻訳している。何年か前には、「キャッチャー・イン・ザ・ライ」まで翻訳した。あれだけ絶賛するのだから、村上訳によるギャツビーを読んでみたいものだと思っていた。実はご本人も、「いつかはギャツビーを」と思っていたらしい。いつかは、というより60歳になったら、と思っていたそうだ。それが、幸いにして、数年前倒しで実現されることになり、ついに村上春樹訳による「グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)」が出版された。そりゃあ、読まんわけにはいかんだろう。

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)


潮文庫版の翻訳をした野崎孝氏には申し訳ないが、この訳で初めて「グレート・ギャツビー」の魅力が垣間見えたような気がする。まあ、読むのが原著も含めて4回目(「ノルウェイ」のワタナベ君ですら3回だ)というのも無視できないだろうし、もともと村上春樹の文体にならされているというのは大きいと思うが。今までになく引き込まれて、けっこうな勢いで読みすすめられた。それでも、自分にとってベスト3に入れられるほどすごいと思ったかと言われれば、それはちょっとちがう。訳者のあとがきにもあったけど、これはやっぱり英語で読むしかないのかもしれない。そして残念ながら、原著を読んで、本当の魅力を堪能できるだけの英語力は僕には無い。それって何だかすごく絶望的な感じがするのだけど。
ちなみに今回の訳でまず興味があったのは、ギャツビーの口癖である「Old Sport」が一体どう訳されているんだろう、ということ(野崎版では「親友」だった)。なんと、そのまま「オールド・スポート」だった。げぇ、そりゃないんじゃないの、と思ったけど、訳者のあとがきによれば、「適当な日本語がなく、こうするしかないと判断した」ということだった。んーまあそうかもしれないね。