野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

三十六計逃げるに如かず

先日映画化されて話題になった「ゴールデンスランバー」の文庫版が出ている。先週の出張に持って行って、行き帰りの飛行機や空港の待ち時間に読んだ。

ゴールデンスランバー (新潮文庫)

ゴールデンスランバー (新潮文庫)


首相暗殺の濡れ衣を着せられ、とにかく逃げまくった青年の話。言ってしまえばそういうことだ。正体不明の巨大な陰謀に捲き込まれるわけだが、ではその正体はいったい何なのか、という謎解きをするわけではない。国家という暴力装置の闇を暴きだす、とかいう話でもない。画一的な報道しかできないジャーナリズム批判、という話ではもちろんない。「逃亡者」へのオマージュ。というのはちょっとあるかもしれない。別にどんな読み方をしようと勝手だけど。
これは「羊をめぐる冒険」の話型に通じるものがあるのではないか。巨大で邪悪な力と、それに翻弄される凡庸で非力な個人。
ロング・グッドバイ」のマーロウ君はタフガイだから、その邪悪な力に立ち向かおうとする。「羊をめぐる冒険」の「僕」は「やれやれ」と言いながら、自分の出来る範囲でなんとかがんばる。「ゴールデンスランバー」の青柳君は、ひたすら逃げる。
面白い本だったが、体調の悪いときに、国際線のエコノミーシートに乗りながら読むのにはあまり向いてない。機内で寝るときに、ものすごく夢見が悪かった。ご注意召されよ。