ウォール街と1%の富裕層に食い物にされたアメリカの教育や医療や福祉が、どれだけ悲惨なことになったか。ということについては「貧困大国アメリカ」シリーズで縷々述べられている。それらが実は対岸の火事ではないんだぜ、というのが「沈みゆく大国 アメリカ」だ。さらにその続編、副題に<逃げ切れ!日本の医療>とある。
そう、もういよいよ他人事ではなくなってきているようだ。日本の国民皆保険制度は、世界が羨むほどに手厚く、よく出来たものなのだけど、実は80年代ぐらいからじっくりと時間をかけて、アメリカ発の強欲資本主義のターゲットとして少しづつ切り崩されてきているのだった。
我々にとって健康保険制度は空気のようなもので、そのありがたみについはあまり自覚がない。けれどもぼーっとしていると、いつの間にか誰かに奪われてしまう。「無知は弱さになる」というわけだ。
どんなに素晴らしいものを持っていても、その価値に気づかなければ隙を作ることになる。そしてそれを狙っている連中がいたら、簡単にかすめ取られてしまう。(p.33)
いやはや、まったくもって。
どうにも気の滅入る話ばかりなわけだが、希望がないわけではない。第三章「マネーゲームから逃げ出すアメリカ人」には民間保険会社と契約せず直接支払い診療をする医師たち、またホワイトハウスを支配する民間保険会社等の大企業と対決する各地の州政府、といった事例が紹介される。すでに日本でも、医師はブラック企業並みの勤務を強いられているようだが、第四章「逃げ切れ!日本」では地域との「共同化」により全国長寿ナンバーワンと最低ランクの医療費を実現したという長野県の佐久総合病院のようなケースもあったり。
だからアレだ。諦めるのはまだ早い。そして、だまされないようにチューイして。