野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

吉本新喜劇と父親殺し

「戸村飯店青春100連発」て、これまたなんちゅうタイトルか、と思ったが、読んでみたらうーん確かに100連発かもな、と。

戸村飯店 青春100連発 (文春文庫)

戸村飯店 青春100連発 (文春文庫)


大阪の下町にある、吉本新喜劇に出てきそうな中華屋の息子二人、何かと器用でクールな長男のヘイスケと、単細胞だけどとにかく元気だけはある次男のコウスケ。決して仲が良いとは言えないこの二人が、それぞれに自分とその兄弟についてのお話を語る、という体裁。まあほんと、人の考えてることっていうのはわからんし、また人から見られている人物像とセルフイメージってのはけっこうギャップがあるもんだというのがよくわかる。
さてこの物語は、典型的な(1) 旅立ち(分離)、(2) 試練(通過儀礼)、(3) 帰還(リターン)、という神話の構造を採用している。実際にはヘイスケの試練はあまり試練っぽくないけど。でもまあ、そういうわけで王道とも言えるお話だろう。さらによく見ると、「カラマーゾフの兄弟」の翻案とも言えるんではないか。ただしカラマーゾフの粗暴な長男ドミトリーは、ここでは次男のコウスケで、合理主義の無神論者、イワンは戸村家の長男・ヘイスケだ。三男坊の真面目な美青年・アレクセイがいないじゃないかと思うかもしれないが、彼は戸村家にはいなくて、コウスケの友人である優等生の北島君だ。そして父親フョードルの役の一部は、ヘイスケが兼任している、多分。
ちなみに、コウスケは父親を殺してはいない。
と、思いつきを書き連ねてみたが、まあそんな小賢しいことはわすれて楽しめばよろしい。ただし電車の中では読まない方が良い。戸村飯店で繰り広げられる光景はまるで吉本新喜劇だし、コウスケ、ヘイスケとも彼らの日常会話はそのまんま漫才だ。思わず吹いた、というところが15箇所ぐらいある。そして、「アルプスの少女ハイジ」を観たらチーズを食べたくなるごとく、きっと中華料理が食べたくなる。要注意だ。
ちなみにわたくしは土曜日に梅田の青冥で麻婆豆腐ランチを食べ、日曜日に近所の中華屋で半チャンセットを食べてしまった。罪深いことだ。次の日曜日には教会へ懺悔に行こうと思っている。