野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

ミユキもけっこう侮れない

久しぶりに奥田英朗なんかをお気楽に読んでみたいよね、ということで、文庫の新刊で出ている「噂の女」を。

噂の女 (新潮文庫)

噂の女 (新潮文庫)

高校時代は地味で目立たなかった、糸井美幸なる女。これがどうやら短大で「デビュー」したようだ。それ以降、中古自動車販売店の事務員から始まって、不動産会社の社長の愛人になり、議員の愛人になり、どうもあちこちで男を籠絡し、どんどん力をつけてのし上がっているらしい。「らしい」というのは、それが噂だから。その噂も、連続保険金殺人とか脅迫とか、かなり物騒なものである。で真相はどうなのかというと結局はよくわからない。ミステリじゃないから、別にトリックが明かされるわけでもない。美幸本人も出てきて喋ったりする場面もあるが、本当のところ何を考えているのか、彼女の心中は決して直接に描写されない。周辺の人間が手玉に取られる有様と、彼らが流す噂によって描写されていくのである。
美幸そのものの話もなかなか面白いのだが、それよりも興味深いのは、その周辺の人々だ。まあはっきり言って、ロクなもんじゃない。小狡い小市民ばかり次々に出てきて、なんだか愛おしくさえ思えてくる。地方都市における、地縁・血縁などのしがらみにがんじがらめにされた人々と、彼らが群がる利権の構造みたいなもののショーケースでもある。昨今こういうものは、どんどん破壊せよという風潮にあるが、いやなかなかどうして、結構ロバストにできていると思いますよ。