野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

ワンダーとシンパシーってやつですよね

お笑い芸人の書いた小説が芥川賞を取った、と話題になった『火花』については、まあそのうち文庫になれば読んでみてもええかな、ぐらいなつもりでいた。
なんでも最近ドラマ化されたようで、おまけに原作も文庫化されてしまった。じゃぼちぼち読んでみるか、と手を出してみたわけですよ。

火花 (文春文庫)

火花 (文春文庫)

 

 

そしたらあんた、これが存外シリアスな話で、しかも面白いじゃないですか。
主役の徳永は売れない漫才師で、営業先で出会ったお笑い芸人の神谷さんは天才であると確信し、弟子入りする。主にその神谷さんについて語るという小説だが、同時にまたお笑いについて、芸人について語られるその内容というのがもう、ほとんど狂気を帯びており、わたくしを戦慄させながらも惹きつけてやまないんである。神谷と徳永の会話がいちいちスリリングで面白いが、まったく常軌を逸している。日常の枠組みを揺さぶるところに笑いが生まれるとして、それを追求しようとするならば、やはりそれはとても危険なことで、よほどしっかりと足場を固め気を確かに持たなければそのまま破滅につながってしまうものなのだなあ、としみじみ思わされる。決して長大な小説ではないし、雰囲気はわりとさらっとしているのに、なんだか妙なインパクトがあって、ずいぶん濃密だった、という読後感。 不思議な本だった。