野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

「この物語はフィクションです」とはどこにも書いてない

いやあ、ねえ。WOWOWドラマWの原作は、ほぼ間違いなく面白い、てのは知ってましたよあたしはね。でもやっぱり、ハズレなしですねええ。で今回は『不発弾』。

不発弾 (新潮文庫)

不発弾 (新潮文庫)

電機メーカーの原発子会社の減損隠しとか、光学機器メーカーの粉飾決算とか、どれもみんな、どこかで聞いたことのある話。おまけに、世襲議員の芦原恒三なんて、そりゃフィクションかもしれないけど、あまりにもモデルがわかりやす過ぎやしませんか、てんだ。
大牟田の炭鉱の町で生まれ、高校を卒業してから証券会社に勤め、体力勝負の「場立ち」要員から叩き上げて、怪しげな金融コンサルタントになったという主役・古賀。バブル崩壊後、ケイマン諸島ペーパーカンパニーデリバティブを駆使して、不良債権などの損失隠し・飛ばしを斡旋するわけだが、その中で知り合うのが前述の芦原恒三。芦原と握手をした瞬間に、「この国は、こうした白く柔らかい手をした人間が支配している」と古賀は悟った、というのがなんとも印象的だ。「白く柔らかい手」の人間には、決して逆らってはいけないのだと。ある種の階層の人々に対しては、物事の道理も倫理も正義も意味をなさない。昨今の世の中で起こっている、もうデタラメとしか言いようのないあれこれについて思いを馳せながら読めば、なんとも絶望的な気分になるではないですか。