野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

短いから読みやすい

芥川龍之介と言えば、自分でわざわざ読んだ事がなくても、ある年代以上の日本人ならば大抵は何かの話を国語の教科書で読んだ事があるはずだ。「蜘蛛の糸」とか「羅生門」、あるいは「鼻」など。僕も実際に何冊かは中学生ぐらいのころに読んだ事がある。ふと、先日読んだ谷崎潤一郎の「少将滋幹の母」と同じネタに基づいて書かれた「好色」を読んでみたいなと思い立って、今回は「地獄変・偸盗」を読んでみた。実はこれには「好色」は入ってないのだけど、まあいいや、と。

地獄変・偸盗 (新潮文庫)

地獄変・偸盗 (新潮文庫)


これは「好色」と同様に、「今昔物語集」や「宇治拾遺物語」を元ネタとして、色々と好き放題した短編集だ。世間では一般に「王朝物」と呼ばれるらしい。収録されている順番としては、「偸盗」、それから「地獄変」なのだが(年代順に並べてあるらしい)、本のタイトルは「地獄変」が先だ。実際、これはなかなかに壮絶な話なのだ。こういう、絵師が作品に没頭するあまりに狂気を帯びる、みたいな話はわりとあちこちにありますな。「ドグラ・マグラ」では、自分の妻を絞殺し、それが腐乱していく様を描いたという古代中国の画家呉青秀が出てくる。なんでもこれは作り話らしいが。そういや「少将滋幹の母」には、死体が腐っていくのを日々見つめ続ける「不浄観」という仏教の修行の話もあったしな。
まあそんなグロい話もありつつも、僕が一番好きなのは「竜」かな。とある坊主が自分とこの寺の前にある池から竜が天に昇る、というガセネタを流したら、本気にした人が一杯出てきてエラいことになる、っていうね。そうそう、この話の最後にあの「鼻」に出てくる和尚・禅智内供が次回予告みたいにチラっと出てくるのもお茶目。
それにしても宇治拾遺物語ってえのは、どうも気色の悪い話が多いな。