野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

TRONて失敗なんすか

以前読んだ「フューチャリスト宣言」に、「過剰の経済学」というキーワードが出てくる。「ロングテール」の提唱者、クリス・アンダーセンが提示する「The Economics of Abundance」という概念に、梅田氏があてはめた日本語訳だ。
社会における種々の障壁や差別の根源には、「リソースが限られている」ということがある、と茂木健一郎氏は喝破する。ここでいうリソースとは、知的リソースだ。例えば、一流大学を出た人間がえらそうにしていられるのは、それが限られたリソースであり、希少価値があるからだ。それが豊富に、いや過剰にあって誰でも容易に手に入れられるものだったとしたら、世界はどう変わるのか。それを考えてみようというのが上述の「過剰の経済学」である、ということらしい。これは別に非現実的なことではない。いわゆるところの情報技術の発展により、簡単に起こりうる話だったりするのだ。
てな話を読んで、強い興味を覚えた。そして書店で見かけたのが「過剰と破壊の経済学」だった。


ムーアの法則により何が起こるか、それにどう対応していけば良いのか、というのがこの本のテーマだ。ムーアの法則っていうのは、18ヶ月で半導体の性能が倍になるとかコストが半分になる、とかいうアレね。
読んでみたところ、どうも「過剰の経済学」よりは、同じ梅田氏が「ウェブ進化論」等の著書に書かれていた「チープ革命」に近い話かなと思った。何かのコスト、あるいは性能がある一線を超えたときに、それまでの前提が崩れる。常識が非常識に変わる、そんな話だ。一線を超えることを、この本の著者は「ボトルネックが移動する」という考え方で説明している。なるほどそういう見方ができるか、と、これはちょっと面白かった。
似たようなテーマの本は何冊か読んだと思うが、この本はその中でも最も「経済学」よりだ。まあタイトルに「経済学」が入ってるんだから当然だけど。この人の専門なのかどうか知らないが、TVの地上ディジタル放送にからむ「電波利権」の話はずいぶんと詳しく書かれており、大きな無駄であることをわかっていながら何もしようとしない官僚を弾劾している。この辺がまた読み応えあり。