野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

小指の思い出

まほろ駅前」シリーズの最新版にして完結編「まほろ駅前狂騒曲」が文庫化された。

文庫化にあたっては、短編が一本追加されているのと、解説が岸本佐知子さんという特典が付いてくる。その解説に曰く
「多田と行天の物語は、しばしば小さいものが鍵となって動き出す」
とある。おお、そう言われてみれば確かに。そして今回の「小さいもの」とは、女の子だ。それも行天の娘。生物学上の実の娘であるにも関わらず同居していないという辺りの事情については前作までにも説明されているが、まあとにかくその娘・はるを多田便利軒で預かることになるわけだ。もっとも、依頼を受けたのは行天ではなく多田だけども。
シリーズでおなじみの、横浜中央交通バスの間引き運転(やってないけど)を多田に監視させる岡老人、「砂糖売り」の星、小学生の由良、等々が登場し、シリーズの完結に向けてひと悶着を起こす。しかしまあ多田ってのも、んなもん放っときゃ良いのに、てな事にわざわざ手を出しては厄介ごとに巻き込まれて、そらに、どこまでも自由な行天に振り回される。この、フィリップ・マーロウをへなちょこにした感じがまた、何気にハードボイルドで楽しい。
いつ果てるとも知れずだらだら続くシリーズってのはちょっと鬱陶しいけど、ここまでさくっと終わりにされると、ちょっと淋しくもあるわな。また何か違う形でも良いので、いつかどこかで多田と行天の物語を読んでみたい気がする。