野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

800ポンドのゴリラたち

何の予備知識もなかったが、書店で見かけてなんとなく気になったので『企業が「帝国下」する』などという本を手にとってしまった。


いまやiPhoneiPadってのは手放せないガジェットで、そりゃもう便利に使っている(このテクストだってiPadで入力している)。そしてGoogle様に何かお伺いをたてない日は無いし、本やCDやDVDを買おうって時はまずAmazonで内容や値段を調べる。それだけ、わたくしたちはAppleGoogleやAmazonに「餌付け」されてしまっている、つまり、それなしでは普通に生活できないぐらいにがっちりとロックインされてしまっている。まずはこれが「私設帝国」化している大企業のやり口である。これらの大規模で強固なユーザーベースを利用して、自身を食物連鎖の頂点として君臨するエコシステムを作り上げる。サプライヤー企業たちはさながら帝国に朝貢する属国である。帝国は莫大な利益を上げるが、それはこれらのサプライヤー企業、さらには帝国の末端にいて、低賃金で過酷な労働を強いられる多数の人々から収奪したものであり、帝国の中枢にいるごく一握りの人々のみが手にすることができる。
例えば中国のEMS企業フォックスコンなどに関する報道により、IT関連業界におけるこの構図については、比較的よく知られたものだと言える。しかし実は、ほぼ同じような手口でもって構築されたこのような「帝国」は、他の業界にも見られる。例えば、外食産業におけるマクドナルド、食肉業界のタイソンフーズ、穀物メジャーのモンサント、石油業界のエクソンモービル、など。帝国だろうがなんだろうが、iPhoneみたいにすばらしく便利なデバイスを下手なパソコンなんかより安くで買えたり、ハンバーガーで手軽に安く空腹を満たすことができるんだから別に良いじゃないか、てなもんだ。が、これらの企業ってのは何もわれわれ消費者のために事業をやっているわけじゃない。便利だったり、安かったりということには必ず裏がある。先に書いたような、低賃金労働者からの搾取や経済格差というような問題ももちろんあるが、それだけではない。それは例えば環境破壊であったり食の安全であったり個人のプライバシーであったり、そういう、一般消費者の利害に関わる諸問題に対するあれこれの懸念、というものが少なからずあるのだ。いや懸念、とかいうような生易しいものではないかもしれない。この本ではそれらについてかなりの紙幅を割いて紹介しているわけだが、特に食品関連の帝国企業がやっていることについて読むと、気分が悪くなるし、かなりの危機感を覚える。
しかしそうは言ってもこれらの商品やサービスによってわれわれ消費者もそれなりの便益を享受しているのだし(個人的にはマクドナルドなんぞあんまり食べたいとは思わないが)、いまさらそれらを利用するのをやめてしまう、というのも現実的ではない。ここはひとつ、われわれももう少し賢くなって、彼らが実際のところ何をやっているのかを把握し、世の中のためにならんことをするようであればそれに対しては断固抗議し、是正していこうではないですか(そしてそれは可能である)。とこの本は言っている。「帝国」企業の悪行を暴露し糾弾するという本なら、他にも割とあるのだが、この本がちょっと違うのは、こういうあたりだと思う。著者自身が元アップルのインサイダーだったという事情もあろうが、実にクールでリアリスティックだ。
実に読み応えあり、の一冊でございました。