野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

屋根板、鉄床、猫の爪

第二次世界大戦」の4巻を読了。

第二次世界大戦 4 (河出文庫)

第二次世界大戦 4 (河出文庫)

これでやっと、あの大著を何とか読み終わったわけだ。いやまことに、長く苦しい戦いだった…
格調高い文章なのかもしれんが、とにかく内容がなかなか頭に入ってこなくて難儀した。もちろんその原因をこの俺様の知性の不調に求めることにやぶさかではないが、それにしてもこの読みにくさ、もうちょっと何とかならないものだろうか。
思うに、この本を楽しむには、最低限の予備知識として、第二次世界大戦に関わる史実について一通り把握している必要があるのではなかろうか。加えて、その時々においてチャーチル首相が行ったこと、さらにはそれに対する世間一般での評価についても知っていることが望ましい。そうすれば、「あの時なぜチャーチルはあのような判断を下したのか、その背景は、またその狙いとするところは」といったようなことに関する彼自身の言い分を聞き、その妥当性について吟味できる。
しかしながら、第二次世界大戦で何が起こったのか、その経緯に関して客観的な事実を知りたい、などと思ってこの本を読むとかなり辛いことになる。そう、わたくしのように。
第4巻は最終巻だ。「大君主作戦」って何だそりゃ?と思ったらいわゆるノルマンディー上陸作線(正確にはそれに加えて、パリの解放まで含めての作戦全体を指すらしいが)のことだった。ムッソリーニの失脚、ヒトラーの自殺とナチスドイツの無条件降伏、日本軍の崩壊と原爆投下、無条件降伏、ポツダム宣言を経て、第二次世界大戦の終結、そして東西冷戦の始まり、までが語られる。「大君主作戦」(Operation Overlord)におけるチャーチルの立場とか言動に関しては、あれこれと有る事無い事言われていたらしく、それに関する彼の弁明が、わりとあちこちに書かれている。このように、事態の推移を簡明に説明するよりも(そんなことはすでによく知っているだろうという前提で)あれこれと言い訳がましいことが格調高く書き連ねられているので、結局何が起こってなぜそんなことになるのか、ということを読み取るのが難しくなっているのだ、と思った。いやまあ、単に俺様が頭悪いか集中力が足りないかあるいはその両方というだけなのかもしれないけど。
それでもスターリンとの確執というか、なかなかまともに話の通じない相手と必死でコミュニケーションを取ろうとする様子というのは、興味深いものがありますけどね。チャーチルが政治家として大物、というより怪物であるということは十分に感じられた。
大戦終結後、ヨーロッパの安定的な平和のために、「ヨーロッパ合衆国」のようなものをチャーチルが提案した、というような記述がある。そうだったのか。それがやがてECとなりEUとなり、そして言い出しっぺの英国は70年後に「いちぬけた」てのは何だか皮肉な話じゃないか。もっとも、チャーチルの「ヨーロッパ合衆国」構想に英国が含まれていたのかどうかは、実は本書を読む限りではわたくしにはよくわからないのだけども。連合国を構成していた三大国のうちの一つとして、「お前らヨーロッパの国どうしでごちゃごちゃ争わずに、それぞれ協力して外部からの脅威に立ち向かうべきだぞ、オレたち大英帝国はまあ安泰だから良いけどな」と上から物を言っていた、と考える方が何となくチャーチルっぽくて面白いけど。
この日本語版で全4巻となる『第二次世界大戦』の他に、『第二次大戦回顧録』というのもある。これらがどう違うのか、というかそもそも同じ本ではないのか、というのがよくわからなかったのだが、「エピローグ」によると本書は、全6巻にて構成される『第二次大戦回顧録』から「軍事上のあまりにも詳細にわたる専門部分に立ち入るわずらわしさを省き、発生した事実の真相を知りたいと望む人々のために、改めて編集し、部分的に補正を加えてまとめたもの」だそうだ。うへえ。
ちなみに今わたくしの手元には、『第二次大戦回顧録 抄』の文庫版が、最初の3ページほどを読んだ状態で放置されている。上記のチャーチルのコメントを読んだらちょっとうんざりするが、まあ「抄」だから何とかなるかな、とも思ったり。こちらもいずれ片付けるとしよう。