野生のペタシ (Le pédant sauvage)

Formerly known as 「崩壊する新建築」@はてなダイアリー

あなたには黙秘権がある

2006年3月12日の朝日新聞朝刊の書評において、「あなたに不利な証拠として」という小説が紹介されていた。内容は良く覚えていないにもかかわらず、なんだかものすごく気になって、そのうち文庫になったら読んでみようと思っていた。そしてあれから2年半が経過し、めでたくハヤカワ文庫で出てきたので、さっそく購入したわけだ。

あなたに不利な証拠として (ハヤカワ・ミステリ文庫)

あなたに不利な証拠として (ハヤカワ・ミステリ文庫)


2006年『週刊文春』ミステリーベスト10、そして2007年版『このミステリーがすごい!!』、において第1位となった作品らしい。だが、普通のミステリーを期待して読むと、ちょっと肩すかしを喰らうように思われるのだがどうだろう。決して出来が悪いと言っているわけではない。しかし、ミステリーとして読むと、いくつかの謎が謎のまま放置されていることに対して、ミステリーファンはフラストレーションを感じたりしないのだろうか。
5人の女性警官が主役の、連作短編集。作者は元警官らしい。経験者でなければ書けない、徹底したリアリズムとディテールに、時に気分が悪くなりながらも、でもこれがこの本の魅力のひとつだと思う。各短編どうしの、ストーリー上のつながりはゆるく、基本的にはそれぞれ独立している。不自然なところでいきなり話しを断ち切られ、まるでレイモンド・カーバーの短編を読んでいるような気分にさせられる。「傷痕」はアメリカ探偵作家クラブ最優秀短編賞の受賞作だそうだが、これこそ、謎が謎のまま放置されてどうにも気にかかる。主役のキャシーは後の「生きている死者」でちらっと出てくるが、ここから話が展開するのかと思うとそういうわけではない。なんとも言えない、不思議な小説だ。