中島敦の「名人伝」という短編小説がある。とても好きな話だ。オリジナルは中国の故事らしい。ほとんどホラ話のように思えるけど、ああいうのは意外と実話だったりするんだぜ、てなことを甲野善紀先生は「武術の新・人間学」という本で書いている。
- 作者: 甲野善紀
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2002/11
- メディア: 文庫
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副題は「温故知新の身体論」とある。これを真に受けて、ああ身体論の本なのかと思って読むと、ちょっと肩すかしを喰らうかもしれない。身体論らしき話は、あちこちに書かれている「とにかく身体をねじらない」ということぐらいか。でも良いのだ、それで良いのだ。解説は内田樹先生だ。なるほど上手いこと言うな、と思ったので少し長いが以下に引用しよう。
ある概念が「何を意味するか」を初学者に教えようとしたら、ただそれを厳密に定義してみたり、別の言葉に言い換えてみても、ほとんど効果がない。
ある概念を「持っていない」人間に、その概念を「分からせる」ためには、「お話を一つ」しなければいけない。
簡単な概念であれば、短い「お話」で意は通じるだろう。しかし、概念の難度が増すにつれて、「お話」は長くなり、登場人物の数はふえる。
(中略)
教えようとすることがむずかしければむずかしいだけ、お話は「奇妙な味」のものになる。噛み砕きにくく、消化されにくいものになる。
そのように、いつまでも「消化されない」で身体の奥底にとどまるような「お話」、熟成するまでに長い歳月を要する「お話」が、「ほんとうにたいせつなこと」を語るお話なのである。
ということで、この本の大部分では様々な武道家の色んな逸話・伝説の類いが語られる。文章はちょっとクセがあるけど、話自体はけっこう面白い。何より、
これは赤鉛筆を手にして、重要箇所に傍線を引きつつ、ごりごりと読むような本ではない。むしろ、甲野先生の隣に座って絶妙の座談を聞いているような、くつろいだ気分で、頁をゆっくりめくって読んで欲しいと思う。
なのだそうだ。今度は養老先生との共著も読んでみよう。