小説「アルジャーノンに花束を」の中で、主人公チャーリーは、同僚がパンをこねる様子を観察し、自分でも真似をしようとするのだがうまく行かない。100%完全にその動きをコピーすることはもとより不可能だ。ではどこをどう真似れば良いのか、つまり何がポイントなのかがわからない。
ジャック・ウェルチの自伝を読むと、ウェルチ自筆の、手書きメモのいくつかを見ることができる。チラシの裏に書かれたようなあれらのメモには、いわく言い難い、ある種の迫力がある。それは、PowerPointやExcelで作ったようなきれいな図には到底感じられない種類のものだ。
仕事で(仕事でなくても良いけど)考え事をするときに、思いついたことをPCに入力しながら整理するのと、メモ用紙に落書きのように書きなぐるのとでは、何か違う。
気合いを入れてプログラムのデバッグをするときは、ソースコードをモニタ上で見るのではなく、紙に印刷したくなる。
これらのことは、「リファクタリング・ウェットウェア」を読んだら「あーなるほど、そうよねぇ」と納得できた。
リファクタリング・ウェットウェア ―達人プログラマーの思考法と学習法
- 作者: Andy Hunt,武舎広幸,武舎るみ
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2009/04/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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あの「達人プログラマー」シリーズ(読んでないけど)のアンディ・ハントの最新刊だ。「ウェットウェア」とは脳のこと。我々は、自身の脳が持つ潜在能力のうちごく一部しか活用できてない、てなことはよく言われる。その「ウェットウェア」を「リファクタリング」し、パフォーマンスを向上させるためのやり方が色々と書かれている。
人間の脳には「左脳」と「右脳」があって、左脳では論理的な思考を、右脳では直観や感覚的な処理を担当している、てなことも同様によく言われる。最近の研究によれば、このコンセプトはそう大きく間違ってはいないものの、左とか右とかいう単純な話でもないらしい。そこで本書では、脳によるこれらの処理のモードをそれぞれ「Lモード」(=Linear Mode)、「Rモード」(=Rich Mode)と読んでいる。我々の業界ではどうもないがしろにされがちな「Rモード」をもっと大事にしなければならない(Lモードはもちろん大事)、というのはひとつの大きなポイントだ。「LモードからRモードへの流れを作る」というのも重要なキーワード。
余談だが、これも最近の研究によると「脳細胞は、破壊されることはあっても新たに作り出されることは決して無い」という説(半ば常識だ)は正しくないらしい。所定の条件下では、ちゃんと脳細胞は新しく生まれてくるのだ。だから、少々脳細胞が破壊されてもそんなに心配するには及ばない。安心して酒を飲み、酔っぱらうことができるというわけだ。
まあとにかく名著だ。O'Reillyから出ている本だがプログラマやソフトウェアエンジニアだけが読むのではあまりにもったいない。