現時点では有効な治療法や薬がない、だけど将来的には何か画期的な何かが見つかるかもしれない、という難病に対して、とりあえずの時間稼ぎとして患者を冷凍保存しておく。というアイデアはけっこう昔からあったんじゃないかと思う。でもこのアイデアを実装し、システマティックに運用していこうとすれば、現実に様々な問題が巻き起こるだろう。それを小説にしたのがこの「モルフェウスの領域」だ。
- 作者: 海堂尊
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2013/06/21
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (5件) を見る
「凍眠」するのは、網膜芽細胞腫の患者でハイパーマン・バッカスの好きなアツシ君、「ナイチンゲールの沈黙」に出てましたね。如月翔子師長も。あと「マドンナ・ヴェルデ」の曾根崎伸一郎教授、そして丸投げ大王・高階病院長に田口講師。あ、講師じゃなくてセンター長になってる。この本を初めて読む人でも十分楽しめると思うけど、いわゆる桜宮シリーズの他の作品を何冊かでも読んだことがあれば、まるで同窓会で久しぶりの友達に会うような気分だろう。それぞれが際立ったキャラクターを持つ登場人物たちが複雑に絡み合いながら同時並行的にあるいは時間を隔てて進んで行く複数の物語、これを「桜宮サーガ」と呼ぶ人もいる。よくこんなややこしい物語群を破綻させずに作り上げるものだ、と感心していたのだが、じつはやっぱり破綻しかけている部分もあるらしい。それを繕うために、こうやってまたひとつの物語を立ち上げてしまうというのだから、海堂さんもなかなかしたたかというか、まあやっぱり鬼才と言うほかございませんな。